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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

これはアメリカの悲劇だ
-バイデンVSトランプ再戦?-2023.04.21

歴代の米国大統領で初めて起訴されたトランプ氏は、閉廷後ただちにフロリダ州に戻り記者会見に臨んだ。

会見場の「マール・ア・ラーゴ」と呼ばれる同氏の豪邸は、故安倍元首相との首脳会談にも使われたトランプ傘下のリゾートホテルを改装したもの。館内には、大きな宴会場がいくつかあり、その一つが会見に充てられた。

会見もさることながら取材陣を驚かせたのは通路を挟んだ広大な別の宴会場に積み上げられた段ボールの山。中身は、選挙応援用に販売するTシャツなどトランプ・グッズだった。裁判闘争が激しくなるほど選挙運動も盛り上がると読んだ、「一石二鳥」作戦だ。

今回の起訴は、2016年の大統領選挙期間中、選挙に不利となる自身のスキャンダルをもみ消すため口止め料を払ったことを報告、記載しなかった選挙違反だ。支払いを弁護士名で行うなど手口は悪質だが、形式犯ともいえる。

しかし、これはトランプ氏が抱える犯罪容疑としては序の口だ。致命傷になりかねない、と見られているのが司法省の特別検察官が捜査中の21年1月、米連邦議事堂襲撃事件にトランプ大統領がどう関与したかだ。

事件に絡み当日、副大統領として選挙結果を採択する本会議議長を務めていたペンス氏が連邦地裁の召喚に応じ、証言することになった。ペンス氏は、議場にいた本人と家族が侵入した暴徒により身の危険にさらされたことへの怒りをあらわにしている。同時に、選挙結果を覆すよう何度もトランプ氏に圧力をかけられたが拒否したとも述べている。

同氏の法廷証言が得られればトランプ氏は公選手続き妨害で起訴される可能性が高い。特別検察官は、トランプ氏が大統領辞任後に多数の機密文書を自宅に隠匿した疑いの捜査も進めている。従来、歴代大統領は、在任中に得た文書を公文書館に移管するか、個人図書館を作って第三者に管理を委託してきた。

他方、機密文書はバイデン氏の自宅からも副大統領当時のものが見つかっており、これは“痛み分け”になる可能性が高い。

トランプ氏にとって“ハチの一刺し”になりかねないのがジョージア州ファルトン郡ウイリス検事による執念の捜査だ。

彼女は20年、同州での大統領選開票に際しトランプ大統領が選挙管理者である同州務長官(共和党員)に電話して、「勝つために必要な票を見つけろ」と圧力をかけた事件を2年以上追求してきた。

これまでにトランプ氏の元首席補佐官、弁護士、共和党上院議員、開票作業に当たった職員、ラッパー歌手でトランプ支持者のカニエ・ウエスト氏らが事情聴取を受けてきた。

この捜査で注目されているのは、事件を選挙法違反や、強要罪でなくRICO法と呼ばれる「威力行為及び腐敗組織に関する連邦法」で立件しようとしていること。本来はマフィアなど組織犯罪に適用される法律だが、トランプ氏の不法行為を包括的に追訴することが可能になる。1980年代、ニューヨーク5大マフィアを壊滅に追い込んだ法律として知られている。

裁判と選挙の同時進行

問題は起訴手続きと公判スケジュールだ。いずれの事件も起訴後、陪審員の選定(双方の合意が必要)に4か月、公判開始までの申し立て処理等で約9か月かかる。

最も早いニューヨークでの裁判で検察側は来年1月の公判開始を要求、弁護側は4月を主張している。まさに大統領選挙の予備選が始まり、山場を迎える時期に重なる。公判は大統領選挙本番と同時進行となる。

分裂したアメリカと言われるが、悲劇は民主党内、共和党内にも亀裂が走っていることだ。複雑骨折した力関係の権力闘争に堪えられるのは現職か、常識の外にいるトランプ氏しかいない。二人の年を重ねると156歳だ。マジかよ!?と言いたくなる。

共和党の選挙プロは「トランプ支持者は叩かれるほど強くなる。新たなトランプを見つけ、“この方がいい”と説得するしかない」と言うのだが。