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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

立憲民主党の敗北を考える
-革新右派勢力に守旧左派は勝てない-2021.11.11

選挙で示される「民意」には、必ず貴重な含意が込められている。今回の選挙で有権者が発しているサインは何なのだろう。

まず問われるのは、野党だ。選挙は結果がすべて。甘利自民党幹事長を小選挙区で、派閥の領袖である石原伸晃氏も落選させたと共闘の成果を自賛したい気持ちも分からないでもない。が、大物とはいえ採決の場では単なる一票。多数を制しない限り何を言っても“負け犬の遠吠え”になる。政権交代(233議席以上が必要)を訴えながら改選前に比べ13議席も減らしたのだから明白な敗北で、枝野幸男党首以下の辞任は当然といえる。

「自民党も改選議席を15減らしたではないか」と言う人もあろう。しかし、岸田首相は苦戦を想定して目標値を「自公で過半数確保」に下げていた。結果として自民単独で全常任委員長を獲得したうえで、議席の多数も保てる絶対安定多数を制した。コロナ対応の遅れ、森友学園、桜を見る会問題などで逆風下の選挙だったが、国民からの“お灸”を最低程度に止めたといえるだろう。 

皮肉にもこの結果は、岸田首相を拘束する3A(安倍、麻生、甘利)体制の一角を崩すという副次効果もあった。選挙で信任を受けた首相は、甘利氏の後任を清和政策研究会(実態、安倍派)でも麻生派でもない旧竹下グループから抜擢した。ささやかな自立への一歩だ。

野党論に戻ると、彼らに求められるのは「共闘で一定程度の成果」などというレトリックを捨て、素直に敗北を認めることだ。そこからしか来年の参議院選戦略は始まらない。

2年前に本欄で「野党統一会派」問題を取り上げた。その時、「守旧左派」「革新左派」「守旧右派」「革新右派」という4分類を使って説明した。これは、自社2大政治が生まれた1955年体制の維持か否かを基準に分類したものだ。

55年体制とは何か。政権党の自民党内では、時に応じて派閥抗争による疑似政権交代を行い国民の不満をそらす。他方、労組を背景にする社会党は、政権交代を実現するまでの力は持てないが、議会の3分の1以上を制し憲法改正など国の重要政策変更には拒否権を持つ。守旧、あるいは護憲体制といってもいいだろう。この体制のもと「守旧右派」と「守旧左派」は、多くの面で利害を共有してきた。

革新右派と革新左派の対決構図に

東大の境家史郎教授(日本政治論)によると、自民党の小泉政権による改革路線、09年の民主党への政権交代によって「55年体制」は崩れ、「ネオ55年体制」の構築が進行中だという。4分類に政党を当てはめると「守旧左派」は立憲民主、共産。「革新左派」がれいわ、国民民主の一部。「革新右派」は維新、「右派だが守旧と革新の混合体」が自民、「守旧右派」が公明となる。興味深いのは左右両極に分かれているものの、「守旧度」で一致しているのが共産党と公明党であることだ。

最大の票田、無党派層は今回、革新右派(維新)に多くが、革新左派(れいわ、国民民主)にも一部流れた。彼らは「自民も嫌だが立民・共産共闘も嫌」という反応を示した。

結果、立民は小選挙区で共闘により9議席増やしながら比例区では、22議席も失った。維新が躍進し、れいわ、国民民主も善戦した理由がこれで説明できる。つまり立民・共産共闘は、個々の選挙区というミクロ(戦術)ではある程度成功したが、マクロ(戦略)の戦いでは敗北したといえる。

選挙で示された民意は、左右ともに戦後政治の象徴であった「55年体制」からの離脱を求めているように思える。野党再生議論は、この民意をどうしゃくし、態勢を立て直すのか、から始まる。来年夏には参議院選挙だ。残された時間は多くない。