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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

現実味帯びるトランプ再選
ー〝王朝〟めざす国家改造計画ー2024.02.11

米大統領選挙候補者を決める予備選挙が始まった。投票日は、11月5日。民主党は現職のバイデン氏で決まっているから、焦点はトランプ氏がどのくらいの勢いで、いつ共和党候補者指名を獲得するかだ。

1月のアイオワ州党員集会、リベラル色が強いといわれるニューハンプシャー州での勝ち方を見るとトランプ人気に陰りはない。対抗馬に残ったヘイリー氏(52歳)にとって2月24日のノースカロライナ予備選が正念場。同州は彼女の地元で下院議員、州知事も務めた。ここで敗れるとなればレースからの撤退を迫られるだろう。

では、バイデン(82歳)対トランプ(77歳)という後期高齢者対決の見どころは何だろう。無論、「どちらが勝つか」が最大の焦点。しかしトランプ氏には、その前に乗り越えねばならぬハードルがいくつかある。

同氏は現在、2020年の大統領選挙結果を覆そうと共謀し、国家を欺いた罪、違法に機密文書を持ち出した罪など4件で起訴され、罪状は34件に上る。このうち本命と目される「国家への暴動、反乱」にかかわるワシントン連邦地裁での裁判は、3月4日に初公判が始まる。

これとは別に、女性ライターへの強姦罪、名誉棄損など民事訴訟も起こされていて、ニューヨーク地裁の陪審団は26日、約123億円余りの損害賠償をトランプ氏に命じる判決を出した。トランプ弁護団は、これらの追訴、判決は、「でっちあげ」あるいは、「大統領在任中の行為は、免責特権がある」として上級審に控訴しており、結論は11月の選挙までに出そうもない。だから選挙への直接的影響はないともいえる。

一方、「そもそも同氏には、大統領立候補資格がない」という訴訟が1月5日現在、全米34州で起こされている。このうちコロラド、メーン州では、「資格なし」の判断が下り、トランプ側は連邦最高裁に上告した。他方、13州では却下、もしくは「資格あり」となっている。

「資格なし」の根拠は、合衆国憲法修正14条3項の規定だ。これは「憲法を守ると宣誓した後に合衆国に対する暴動や反乱に関与した者、合衆国の敵に援助、便宜を与えた者は大統領、副大統領候補者になることはできない。上下院議員、合衆国の公職に就くことはできない」としている。

20年11月の選挙から翌年1月5日、大統領就任式までのトランプ氏の言動が、「暴動、反乱に関与した」と認定されれば選挙資格を失うことになる。ただこの条項は南北戦争後、南部の軍人や官吏を排除するために設けられた規定で適用例はなく、最終的には「資格あり」となる可能性が高いと見られている。

こうした曲折を経ての「一騎打ち」となるが、各種調査を見るかぎり現状はトランプ有利に流れている。

トランプが再選されたら

昨年7月までは、バイデン氏が4〜5%リードしていたものが9〜11月にかけトランプ氏が逆転。今年に入って6%以上と、差は広まる傾向にある。

では仮にトランプ再選の場合、何が起こるのか?昨年、保守系のシンクタンク「ヘリテージ財団」がまとめた政策手引き「プロジェクト2025」が参考になる。これによると2期目のトランプの優先課題は、大統領権限の極大化だ。行政組織全体を大統領の直轄下に置く。特にこの2年間、トランプを苦しめた司法省と付属機関であるFBIや諜報機関は徹底的に再編成する。いわば“トランプ王朝化”をめざしている。

外交はどうか。「私は世界の大統領になる気はない」と公言している通り、孤立主義的傾向が強まるだろう。ウクライナ支援の打ち切りどころか、NATO(北大西洋条約機構)からの脱退すら言い出しかねない。

そこで勝敗の見通しは?意外にもバイデン陣営は楽観的だ。トランプ再選が目指す世界を無党派層が知れば知るほど、危機感からバイデンに流れる。共和党の10%強を占める反トランプ票も嫌々バイデンに投票するから、現在の10%前後の差はひっくり返せるというのだ。さて?