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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

参院選、与党勝利その後に
-百花繚乱の混沌政治に向かうか-2022.06.21

参議院選挙は、今月22日公示、7月10日投開票の予定だ。ウクライナ戦争など内外情勢が揺れ動く中での国民審判となる。

通常、対外危機は与党有利に、経済不安は野党有利に働くとされている。ウクライナ戦争絡みでインフレが進行する中、秋の中間選挙に向けた米国上下院議員予備選や、フランスの地方議会選挙を見ると、いずれも政権与党不利に働いている。

しかし日本の状況は、全く異なる。与党の実力というより野党側が自滅的敵失を繰り返すので、楽勝が定着している。どういう訳なのだろう? 参院選結果を先取りしたような5月29日投開票の新潟知事選を見ればよく分かる。

県内から1人を選ぶという点で知事選と参議院選挙一人区は同じだ。参院新潟選挙区では2016年以来、野党統一候補が自公推薦候補に勝利してきた。同年行われた知事選挙では野党統一候補の米山隆一氏が勝利している。

しかし、今回は争点の東京電力柏崎原発再稼働について現職(保守)が再稼働容認含み態度を取ったことを労組組織・連合が評価、支持に回った。いうまでもなく組合員22万人の電力総連は、連合傘下の最有力組合である。これで野党共闘は空中分解。共産、社民と立憲民主の一部議員が推した候補者の獲得票は、再選された現職の3分の1にも達しなかった。

野党敗北後に来るもの

今回選挙で争われる議席は125。自公で56議席を取れば過半数を維持できる。32議席ある「一人区」での勝敗が帰趨(きすう)を決める。

07年選挙では、自民が23敗6勝(定数29議席)で惨敗、第一次安倍政権退陣のきっかけとなった。逆に自民党が政権奪還後、最初の参議院選挙の13年は、野党間での候補者一本化が進まず自民党の29勝2敗(定数31)となり衆参での“ねじれ現象”が解消された。

一人区で立民、共産、国民民主、社民党間の野党共闘、統一候補調整が実現した16年選挙では、自民の21勝11敗(定数32)、19年は22勝10敗となり、改憲勢力を3分の2以下に抑え込むなど一定の成果を上げてきた。

これに対し今回は、32選挙区のうち15選挙区で野党候補が競合している。5月の各種調査を見ると、政党支持率で自民39〜40%に対し、立民6.1〜6.6%、共産2.5%、国民1.7%、社民0.4%。つまり4党を足しても自民党の4分の1程度なのだ。

この状態で共闘が四分五裂なのだから結果は明らか。仮に大逆転が起こるとすれば経済危機、あるいは与党内のスキャンダルで最大票田である無党派層が野党になだれ込むケース以外考えられない。

こうした分析は、すでに新聞、テレビでも伝えられているから周知の事実だ。それだけでは「複眼時評」たるもの面白くない。そこで一歩進めて、「自民圧勝」後に起こる展開を予測してみよう。これまた格好な実験例がある。4月24日に行われた石川県知事選挙だ。

この選挙では8選を目指す現職に対し、森元首相らが元プロレスラーで自民党の馳浩衆議院議員を担ぎ出し、阻止に回った。結果、現職は降りたものの森工作に不満を持つ一部自民県連が推して自民党参議院議員の山田修二氏が出馬、保守分裂選挙となった。さらに告示直前となって現職の金沢市長・山野之義氏も戦いに参入、保守三つ巴の戦いに。結果は、馳氏が僅差で勝利したが、選挙自体は、大いに盛り上がり投票率も61.52%と前回を12%近く上回った。

「自民同士、何人で争っても野党に負ける心配はない」保守天国ならではの選挙。しかし、今後とも与党常勝型が定着すれば、「石川方式」が全国に波及する可能性なしとしない。

与野党対決に代わり保守内部の派閥争い、急進保守と穏健保守、新人と旧人、これに公明、維新も加わった大乱立時代の到来だ。

既存秩序は空中分解、選挙は面白くなるし、新人も出馬しやすくなる。何でもありの混沌(こんとん)から新しい政治が生まれてくるならそれはそれで面白いではないか。