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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

人口問題と国力2019.03.11

-どのような国にするのか、自問の時-

「歴史を見れば人口が多くても経済的には壊滅的な国もあったし、人口は少ないが強大な国もある。しかし高齢化が進む国で対策を取らなければ確実に衰退する」。フランスの思想家、ジャック・アタリの言葉だ。

2017年国勢調査と、国立人口問題研究所の推定によると現在、1億2千万余の日本の人口は2065年に8800万人、2100年には5971万人となる。今は、全体の27.7パーセントである65歳以上の人口は2065年に38.4パーセントに達する。さらに元横浜市副市長、甲南大学前田正子教授は、出生数ゼロ地域が多発する「無子高齢化社会」(岩波書店)に突入すると警告している。まさに「衰退確実国」日本。この不都合な真実にどう立ち向かうのか。取り得る選択肢を考えてみよう。

第一は出生率を上げ子供の数を増やすこと。政府は1994年のエンゼルプラン以降、さまざまな施策で1.2パーセント前後の出生率を1.8パーセント程度まで増やそうとしてきたが上手くいかない。もっとも人口を維持するためには2.07パーセントの出生率が必要だから、これでも人口は減る。減るスピードがやや下がるということだ。仮に出生率が上がっても子供の増加が年齢構成を変えるまでには10年以上かかる。

フランスで54パーセント、米国で40パーセントも占める婚外子(日本は2パーセント)を受け入れる社会づくり、大学卒業まで1人当たり2200万円かかる育児コストの公的負担などが必要だが、大きな期待は持てない。

第二は移民の受け入れだが、問題は政府だけでなく国民自身も移民政策に腰が据わらず、リスクを取る覚悟もない。昨年11月の改正入管法審議で立憲民主党の山尾志桜里議員と安倍首相のやり取りを見るとよく分かる。

山尾議員 「(これだけ海外労働力を受け入れながら)首相はいわゆる移民政策をとることは考えないという。首相の言うような定義を取る組織、学説はあるのか」

安倍首相 「国民の方々が懸念を持っておられるような政策をとることは考えてないということだ。学説や、海外の基準に準拠するものではない」。これではさっぱり分からない。

成立した改正入管法では今後5年間で海外から約34万人の職業訓練生を受け入れ、3年後の資格試験を通った人に居住権と家族の呼び寄せを許可するという。これは移民に他ならない。むしろ、国民が懸念を持っている治安問題、共に暮らすことによるトラブルなどリスクを徹底的に洗い出し、早めに対策を取ることが先決だ。同時に訓練生が日本社会に溶け込み、働きやすい環境を作る待遇、研修、生活支援も行わなくてはならない。

人口減で中型国家へ?

すでに優秀な海外労働力は先進国間で争奪戦が始まっている。語学、待遇、為替(母国への送金はドル建て)面でハンデのある日本は、海外労働力に敬遠される可能性が高い。なにより人口構成を変えるぐらいの移民となると数百万人という非現実的なオーダーが必要になる。

第三は、人口の減少をありのままに受け入れて5000万人程度の安定した「中型国家」を目指すこと。“ゆっくり型衰退”と言えるかもしれない。移民は高度技術人材に絞る。女性と、70歳代が働ける職業環境を整える。人に代わって現場・事務作業の大半を処理可能なIT、AI(人工知能)技術の開発と導入を急ぐ。現在以上の生産性が確保できれば可能になる。ただ中型高齢国家の弱点は、精強な軍隊を必要とする国家安全保障戦略が立てにくいことだ。まあ、北朝鮮並みの核抑止力を保有すれば何とかなるのだが。

生産力の中心が人力だった時代、奴隷(労働力)獲得のための戦争が頻発した。そんな時代に戻るわけはないが、危機感を共有し、腹をくくって選択する時だ。