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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

どうなる米大統領選挙2019.10.21

-トランプ再選のロードマップ-

来年7月24日から8月9日まで、日本全土は、オリンピック・フィーバーに包まれているだろう。ちょうどその頃、アメリカは大統領選挙のラストスパートに突入する。「なんでもあり」で再選を勝ち取ろうとするトランプ大統領に対し民主党の対抗馬は誰になるのか?そしてその結末は?

現段階で、これらの問いに答えるのは難しいが、あえて「トランプ再選」という結末からたどって大統領選挙の行方を占ってみよう。

現状で見る限り、トランプ再選には危険信号が点滅している。選挙に向けて自らが有利になるよう他国政府に直接、協力を働き掛けた疑惑が次々と浮上しているからだ。最大のものは、ウクライナ疑惑だ。

オバマ政権時代、バイデン副大統領の息子が米国も支援した同国のエネルギー事業に関わったことに疑惑はないか。7月にトランプ大統領が直々、ウクライナ新大統領との電話会談で軍事援助の取り消しをちらつかせながら捜査を要求した。さすがに、「ひどすぎる」と事情を知る複数の政府関係者が内部告発に踏み切った。

米憲法は、「大統領を反逆罪、収賄罪、またはその他の重犯罪や軽罪で追訴できる」権利を議会に与えている。

ロシアがトランプ陣営と共謀して2016年大統領選挙に干渉したのではないかとの疑惑が起きたとき、民主党下院議長のナンシー・ペロシは及び腰だった。下院では告発できても決定するのは上院に設けられる弾劾裁判所。共和党が多数を制している状況で弾劾が実現する見込みは薄いからだ。

弾劾審議とリンクする大統領選

しかし今回、民主党下院は弾劾告発に向けた審議に入った。若手急進派からの突き上げが激しかったこともある。同時に、年末から来年初にかけては大統領予備選の動きが本格化する。これと同時進行形で審議を進めトランプ政治の越権、脱法行為のひどさを国民に印象付けられる。であるなら仮に上院で弾劾決議が否決されても有利という計算が働いた。

これに対しトランプ陣営は、弾劾審議開始が議決を経ず行われたことは違法で、ホワイトハウスは証拠提示、証言など一切の協力はできないと宣明した。評決を行えば保守的な地域の民主党議員が造反し内部分裂が露呈するとの計算からだ。

トランプ戦略はシンプルかつ実利的だ。

対抗馬一番手のバイデンはスキャンダル疑惑で潰した。2位のエリザベス・ウォーレン上院議員は経歴詐称や、出生をめぐる疑惑(4分の1、原住民の血を引くといわれる)で潰しに入る。汚いテクニックで普通の政治家なら耐えきれぬ人格攻撃だが、テフロン加工のようなトランプには効かない。むしろ支持者はそれを面白がる、というアンバランスを逆手に取った戦略といえる。

アメリカ政治の変化は選挙区の地殻変動で起きる。南部の農民、北部の労働者を結び付けた民主党のニューディール連合は30年代から60年代まで続いた。公民権法の実施で南部の民主党が2つに割れ共和党のレーガン大統領が実現した。東海岸と西海岸のリベラルで「持てる」州と、「忘れ去られた」中西部、南部の低所得白人層の亀裂から、トランプは生まれてきた。今のところ、この構造に変動は起きていない。