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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

野党統一会派の行方2019.10.01

-いつか来た道にならぬために-

立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、「社会保障を立て直す会」の野田佳彦代表が先月19日、国会内で会談し、衆参両院で統一会派を組む合意をした。新会派の名称は、「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」とか。長すぎるし、気迫も感じられない。

この会派、10月4日に開会する臨時国会から活動を開始する。参議院会派には社民党も合流する。これにより同会派は衆議院117人、参議院61議席の勢力となる。かつて、同じ船に乗り合わせた仲間が内ゲバを繰り返し、四分五裂。選挙のたびに議席を減らした挙句、臨時国会冒頭ともささやかれる解散におびえ、暗い夜道にお手てをつないだのだろう。

3代表は記者会見で、「野党が大きな構えで、より力強く政府と対峙してゆく」と抱負を語った。その言やよし。そこで新会派が新政党に移行し(これも難物ではあるが)、自民党に代わる対抗勢力に育つ可能性はあるのだろうか?「ない」と切り捨てれば実も蓋もなくなる。逆に「どうすれば自民党の対抗勢力になりうるか」、を考えてみる。

まず3代表には、保守対革新、保革対決という対立軸がとっくに消えてしまった事実を肝に銘じてもらいたい。若い有権者から見れば憲法を含め、既存のシステムを変えることに、「ただ抵抗しているだけ」の野党各派は守旧派。むしろ、占領下に作られた戦後体制を変えようとする自民党の方が改革意欲があるかのように映る。私は、いい悪いを言っているのではない。比較的若い有権者から見て、政党の違いがどのように認識されているかという現実を語っているのだ。

社会学でよく使う図を4分割した『象限表』でイメージすれば分かりやすい。横軸(左)をリベラル(平和主義、多民族主義)対、(右)保守(伝統文化尊重、国権主義、自主防衛)に分ける。これに交差する縦軸の上に行くほど現状打破志向とし、下に行くほど現状維持志向とする。こうしてみると、「リベラルかつ現状維持」(左下象限)の最下点には共産党が位置する。面白いことに丁度その対極、現状維持で保守の右下象限には公明党がいる。立憲民主、旧民主党の各派は、いずれも左下象限(リベラルかつ現状維持志向)内で共産党からセンターラインまでのどこかにドットされている。

主要対立軸は変革か現状維持か

では自民党はどこに位置しているのか。政府・自民党が提出した法案内容を解析すれば答えが出てくる。悪い例かもしれないが当コラムでも触れた水道事業に外国民間会社の参入を認めた水資源法、もみ種などの輸入を自由化した種子法改正案などを見る限り現状変革派であることは否めない。これに憲法改正を合わせれば「保守かつ現状打破」の右上象限中位に位置づけされる。

より鮮明に、「保守かつ現状打破」を打ち出しているのは、大阪生まれの「維新の会」である。地方行政ともたれあった親方日の丸組合(いわゆる55年体制労使版)を叩き壊すことで府民、市民の支持を集めた。残ったのが、「リベラルで現状打破」の左象限である。今のところこのゾーンに唯一、位置しているのが全国比例で200万票以上を集めた山本太郎の「令和新選組」である。

左右の上位に「令和」と「維新」が、左右の下位に「共産党」と「公明党」が鏡のように位置している。最近の国政選挙結果を見る限り票は間違いなく下位から上位へと流れている。とすれば野党新会派に求められているものは明確だ。「リベラルに改革してゆく」ロードマップを国民に提示できるかどうかが最初の一歩。無理ならいっそ、山本太郎に党首になってもらうか。断るとは思うが。