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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

2021年の政治カレンダー
ー解散時期、決めるのはコロナと五輪ー2021.01.01

警備保障タイムズ読者の皆さま、明けましておめでとうございます。春以降、順次進められるであろうコロナ・ワクチン接種が支障なく国民に行き渡り、2年越しとなったコロナ禍が収束されることを祈るや切です。

今年の政治カレンダーを考えると、バイデン新米大統領と菅首相との首脳会談、日中、日韓関係の打開など課題が山積しています。しかし、国民の関心事は10月21日に任期切れとなる衆議院解散を菅首相がいつ決断するか、でしょう。通常国会の召集が1月18日になったことで予算審議スケジュールを考えると冒頭解散は消えたとみていい。残る選択肢は予算成立後の3月末、東京五輪直前、都議会議員選挙との7月同日選挙、あるいは9月5日の東京2020大会終了後、その変形として9月末の自民党総裁選で菅続投を決めた後――などが考えられます。

首相や後見役の二階幹事長は、総裁選挙で有力な対抗馬がなさそうなので五輪後案に傾いているようです。いずれにせよカギを握るのがコロナ収束のタイミングと、東京五輪の行方であることは間違いありません。コロナに関しては、医療従事者、高齢者へのワクチン接種が3月末に始まる予定です。2週間の間をおいて再度、接種しなくてはならないため全国民に接種が終わるのは6〜7月ごろでしょう。以後、その効果が見えてくるので、ちょうど、東京五輪(7月23日開会)とパラリンピック(8月24日開会)の時期に重なります。

先日、共同通信ジュネーブ特派員としてIOC(国際オリンピック委員会)を取材、その後JOC(日本オリンピック組織委員会)役員も務めた山口光氏の話を聞く機会がありましたが、開催へのハードルは想像以上の高さです。

バッハ会長の姿勢

山口氏が注目したのは11月に来日したIOCバッハ会長と菅首相との会談です。菅首相が「人類がコロナウイルスに打ち勝った証として開催を実現する決意だ」と胸を張ったのに対し会長は「実行するという(日本の)決意を十分共有する」と応じています。あくまで開催を決断し責任を取るのは主催国という姿勢が鮮明です。その後、タイム誌とのインタビューでも「開ける」とは断言せず、日経との会見でも、「成功の感触を得ている」と語るに止まっています。

山口氏が心配するのは12月2日に五輪調整委員会がまとめた「中間整理案」で挙げられた検討課題が、ほとんど先送りになっていることです。一部ですが(1)アスリート・関係者の検査実施方針(2)全国競技場での感染症対策センター、保健衛生拠点の設置(3)陽性者の入院・宿泊医療体制作り(4)公道等で行われる競技(マラソン、聖火リレーを含む)での選手、観客感染防止策(5)ボランティア再募集と配置(6)各国メディアとの事前調整(7)会場別観客人数の決定とチケット販売――など全てが「未定」です。コロナ下という特殊事情を勘案しても最低、メディア対応、ボランティア配置、交通規制案などは、開会半年前の3月には準備万端整っていなくてはなりません。東京五輪では33競技339種目が、パラリンピックでは22競技592種目が行われます。しかし、参加者を決める予選が多くの国で進んでないのが実情です。

こうした悪条件が重なり万一、五輪中止となれば菅首相にとって最悪の「追い込まれ解散」になってしまいます。それだけでなく最大のスポンサーである米国テレビが契約違反で巨額の賠償金を求めてくる可能性もあります。その危険を察知して、弁護士でもあるバッハ会長は主催国の責任を執拗に強調しているのかもしれません。戦前に次ぎ2度目の中止という苦渋を飲まされぬためには、カミソリの刃の上を歩くような細心な対応が政権、都、組織委に求められています。