警備保障タイムズ下層イメージ画像

「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

自民党に新潮流の胎動が
―地方選に見る保守支持層の地殻変化―2021.03.11

3月4日現在、世界で約1億1400万人が新型コロナに感染、255万人もの命が奪われた。世界規模の戦争、革命、国家崩壊に匹敵する歴史的大災害だ。スタンフォード大のシャイデル教授は、「壊滅的状態からは、より公平な社会を目指す大胆な改革が始まる」と言う(暴力と不平等の人類史)。

存在感のない野党のおかげで安定しているように見える自民党だが表面はともかく、深層部では新たな蠢(しゅん)動(どう)が感じられる。両面を見ないと大局を見失う。まずは4月、衆参補選までの政治日程を追ってみよう。

2019年7月の参院選で、公選法違反に問われた河井案里被告の有罪が2月4日に確定して同議員は失職した。これで4月25日に行われる衆参の補欠、再選挙は、鶏卵疑惑に伴う吉川貴盛元農相(自民)辞任による衆院北海道2区、新型コロナ感染症で急死した羽田雄一郎氏(立憲)の参院長野選挙区、参院広島選挙区の三つとなった。

有罪判決に「納得できない」としていた案里被告が一転して議員辞職、控訴を断念した背景は謎。しかし、菅政権にとってプラスに働くことは間違いない。衆院北海道2区について自民党は早々に候補擁立を断念、不戦敗が決まっている。参院長野選挙区は名門、羽田家の弔い合戦で自民党の苦戦は必至。しかし、広島で取りこぼす心配はまずない。前回選挙で自民党は2人区に2人を擁立、約57万票を獲得している。2位当選の立憲候補者が得た32万票の倍近い票数だ。今回、仮に立憲が勝っても、その候補者は4年後に立憲の現職と争うことになるから共倒れ確実。候補擁立は難航している。つまり菅政権は、1勝1敗1不戦敗が見込め「二つ負けたら政局(政変)」(下村政調会長)という呪いから脱却できそうだ。仮に3日保釈された夫の克行被告まで議員辞職すれば衆院広島3区との「広島ダブル選」もありうる。つまり2勝1敗1不戦敗も夢ではない。

首長選と保守政治の変化

一方、地殻変動を感じさせるのは、昨年来の地方選をめぐるさまざまな動きだ。まず昨年10月の富山県知事選では自民県議団と同国会議員団が分裂。県議団の推す現職が惨敗した。1月17日、沖縄宮古島市長選挙では自公推薦の現職をデニー知事らの支持を受けた元県議が破った。次が1月24日の岐阜と山形知事選。岐阜では自民県議団と同国会議員団が分裂。結局、国会議員団が推す現職が勝ち後遺症を残した。山形では自民党本部が推す新人を、保守の一部と野党に推された現職が圧倒した。1月31日の北九州市議選では、自民党現職6人が落選という衝撃が走った。3月21日の千葉県知事、同市長選挙も自民不利で進行中。4月4日の秋田県知事選は、イージズ・アショアー配備に消極的だった現職(保守)に難色を示す官邸・党本部の推す元衆議院議員が挑戦するが苦戦必至だ。4月11日投票の福岡知事選は前回同様、野党勢力を巻き込んだ保守分裂選挙となりそうだ。

ほとんどが保守王国と呼ばれる地域での政治変動だ。構図は、保革対決から保守分裂、保革入り乱れまでさまざまで、従来あまりない選挙パターンだ。昨年の自民総裁選で地方の意見が反映されなかった反発、コロナ対応への不満と説明されているがそれだけだろうか。有権者に近い所にいる地方議員の感度は、党中央、官邸より敏感。複雑な選挙構図には、こうした皮膚感覚の違いが働いている。

「多くは保守分裂だから党自体は安泰。分裂するだけの余裕があるということ」との声もあるが甘い。「地方自治は民主主義の学校」である。小選挙区制導入で派閥の権力抗争(党内政権交代)がなくなり執行部、官邸の力が強くなりすぎた。そのバランスをとるように地方からの突き上げが構造改革を迫っている。