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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

忍び寄る誘惑の罠2019.02.21

-衆参ダブル選挙はあるのだろうか?-

今年は、政治評論を業とする者にとって試練の時だ。安倍首相が7月の参議院選挙に合わせ衆議院を解散、ダブル選挙に打って出るかどうか。その結果は? それを受け政局がどう動くか――を見極められるかどうかが問われている。

首相がダブル選の誘惑にかられる気持ちは、理解できる。まず昨年の本紙11月1日号でも指摘したが「亥年のわな」への恐怖心がある。「12年前の亥年は、自民党が参議院選挙で惨敗した。当時(総理)総裁だった私の責任であり、片時も忘れたことはない」。だからこそ今年の参議院選挙は、「まなじりを決して戦い抜く」。2月10日の自民党大会で首相は、声を張り上げた。

4年に一度の地方統一選挙と3年ごとの参議院選挙は12年に一度、重なる。保守系が多数を占める首長、地方議員は自分の選挙に体力、気力(金力)を使い果たすから、その後にくる参議院選挙には虚脱、息切れ状態で臨む。結果、自民党には厳しい選挙となる。

また12年前は「消えた年金問題」が有権者の怒りを買ったが、今回の政府統計改ざん問題は、これに匹敵しかねない広がりを見せている。森友、加計問題以来の失墜した行政への国民の怒りは政権党に向かう。

今回の参議院選挙で、首相の目指す改憲発議に必要な3分の2議席、164を維持するためには自、公、維新、保守系無所属を合わせた改選88議席のうち87議席を確保しなくてはならない。これはどう見ても厳しい。だから政権に批判的な政治評論家、森田実氏は、「安倍首相は、参議院の敗北を少しでも少なくするために衆議院を解散するに違いないと、確信に近い予測を持っています」(マスコミ市民2月号)と言う。

森田氏の分析で面白いのは、今年の選挙を「与野党対決」と見るのでなく、「地方対中央との対決」と見ていることだ。第二次安倍内閣になって首相は衆議院選挙で3回、参議院選挙でも2回勝っているが、その理由を森田氏は、「安倍自民党が他よりまし、なのでなく“他”そのものが存在しなかったため」とみる。しかし、都市集中の矛盾、FTA(貿易自由協定)による規制緩和、外国農産物の流入で疲弊している地方こそ“他”になりうるというのだ。

確かに昨年の自民党総裁選挙を見ても「石破という“他”」がいた時、地方票の出方は安倍総裁に厳しかった。仮に31の地方一人区で野党共闘が成立したら自民党は半数近くを失う可能性があり、3分の2議席どころか過半数維持にも危険信号が灯る。それを避けるには同日選挙しかない、と予測するのだ。

同日選実現性は高くない

私は森田氏ほど「確信に近いもの」は持てない。第一に安倍首相による解散劇を見ると、野党の準備不足を衝いた奇襲であり、消費税見送りの是非など大義名分にも乏しいが同日選自体は避けている。これは戦術的に同日選に不利な公明党を忖度したためだ。その関係を損なうだけのメリットがあるだろうか。

第二に6月末、大阪で開催されるG20サミットに合わせ行われる日露首脳会談で北方領土問題を解決し、解散の大義名分とするとの見方もある。しかし現状では平和条約締結が先行し、帰属問題はその先になりそう。「外交的成果」を誇るには無理がある。なにより同日選挙に踏み切った場合、参議院での過半数は維持できるかもしれないが、衆議院の自民党議席を相当減らしそうだ、との調査結果が政府自民党を駆けめぐっていると聞く。

無論、地方選の結果など不確定要素も多い。しかし、これらのことを考えると最後まで誘惑にかられ、野党をけん制しながらも首相は同日選に踏み切らないと見るが、いかがか。