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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

コロナ後占う米大統領選挙2020.6.21

-それでもあるか?トランプ再選-

1789年以来、58回行われてきた米大統領選挙からはさまざまなジンクスが生まれている。その一つに「オクトーバー・サプライズ」がある。11月第1火曜日に行われる投票日の直前に起きる事件が選挙結果を左右するというのだ。

最近では2016年選挙の例がある。民主党クリントン候補が僅差でリードという最終盤でサプライズが起きた。オバマ大統領に任命されたコミーFBI長官が投票日直前の10月28日になってクリントン候補が国務長官時代、私的メールを公務に使っていたという「メール疑惑捜査」を開始すると発表して同陣営に大打撃を与えた。この恩賞かコミー長官は共和党トランプ政権に移ってからも首がつながったが皮肉にも、同じ選挙で問題になったロシアの選挙干渉疑惑捜査に絡みトランプ大統領の逆鱗に触れ翌年、クビとなった。

さらに13年のオバマ対ロムニー選挙では投票日直前に起きたカトリーナ台風への対応で、直ちに現地に飛んだオバマ大統領に対し後れを取ったロムニー氏が惨敗。1980年選挙では、直前とは言えないがレーガン候補に追い上げられ焦った現職のカーター大統領が、イラン米大使館内に人質となった大使館員らの救出強行作戦に打って出て失敗。これが敗因となった。

さてトランプ対バイデンの行方である。支持率では僅差、東海岸と西海岸諸州を抑えるバイデンに対し、フロリダ、テキサス、中西部の農業、工業地帯で支持を得ているトランプとの互角の戦いとみられてきたが4月以来風向きが変わってきた。三つのサプライズのせいである。

第一は、共和党の期待に反して早くも3月末に民主党内が一枚板の体制作りに成功したことだ。一時は、15人以上が乱立して7月党大会で大統領候補を絞り込むのも難しい、とみられてきただけに大きなサプライズだった。まず党内の穏健、中道派がこのままでは急進的なサンダース候補との間で党の分断が避けられず選挙にならないとみて次々と立候補を辞退、実績のあるバイデンの下に結集した。この流れを見てサンダースも、「大事なのはトランプに勝つこと」と矛を収めた。バイデン候補が「副大統領候補は女性から選びたい」と発言したことも3人の女性候補者の決断を促した。

起こるか第四のサプライズ

第二のサプライズは、言うまでもなくコロナ禍である。6月初旬で感染者は200万人、死亡者11万人を超えた。特に深刻なのは、黒人の死者数が人口比で白人の2倍以上であることだ。失業率の高さ、所得格差、健康保険加入者数の低さなどがその原因として指摘されている。

にもかかわらずトランプ大統領は、「大丈夫、問題ない。すぐ収まる」といった無責任な発言を繰り返し事態の悪化を招いた。しかも経済優先で都市封鎖の再開を急ぐ。こうした対応、言動への怒りが第三のサプライズとなる警察官による黒人市民への虐殺事件、これを受けての全国的な抗議行動の広がりにつながった。

確かに抗議行動の初期には、混乱に乗じた略奪、放火などの行為もあった。しかし、それも次第に収まり今、米各メディアが注目しているのは年齢を超えた白人層の抗議行動への参加数の高さである。抗議する黒人の前に白人少女が並び警官隊と対峙するといった光景が連日、全米で中継されている。結果、6月初旬の調査でバイデン氏の支持率は、トランプに対し10パーセントを超える差をつけた。

では第四のサプライズはあるのか。筆者はコロナ第2波次第ではないかと思う。どちらに有利かは早計に判断できないが。