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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

維新はなぜ強いのか
-既成野党が背を押す-2023.07.21

年内に予想される衆院解散で維新の躍進が喧伝(けんでん)されている。根拠もある。

5月のNHK政党支持率調査で維新は、野党第一党の立民を抜き、6月調査では維新6.2%、立民4.2%と差を広げた。毎日新聞の5月調査でも、「立憲と維新のどちらが野党第一党としてふさわしいか」との質問に、維新と回答したのは47%。立憲は25%に止まった。

何故、いま維新なのか? 東工大の西田亮介准教授(情報社会学)は、「ブルー・オーシャン効果」だと言う。

これは21世紀以降、ニュービジネスの世界で提唱された概念で、既存のビジネス環境を「レッド・オーシャン」とし、その対極に「ブルー・オーシャン」を置く。

「レッド・オーシャン」は、既存業種がひしめく血まみれの競争社会だから新興企業が生き残るチャンスは少ない。

対してブルー・オーシャンは、既存企業と競合しない「すき間」の市場空間を創造する戦略だ。競争がないから自由に成長でき、やがて「ブルー・オーシャン・マジョリティー」が実現する。

これを現実政治に置き換えて西田淳教授は、維新が「チョイワル、成り上がり」という今までにないイメージを打ち出し、これが既得権益や権威に挑戦的で改革志向の層にアピールしているというのだ。

維新の議員世代層を見ると30歳代後半から50歳代前半に集中している。この世代、「就職氷河期〜ポスト氷河期」に当たり非正規労働者の比率が高い。「ロスジェネ」とも呼ばれる。自民党は、もとより労組の恩恵にもあずかれなかった団塊である。

筆者は、野党の低迷を論じる際、政党類型を「守旧左翼」(立民、共産)、「革新左翼」(れいわ)、「守旧保守」(自民、公明)、「革新保守」(維新)と分類、解説してきた。2010年以降の政治は、「守旧左翼」が「革新保守」と「革新左翼」の挟み撃ちに合いジリ貧になる過程だ。自社二大政党下の「55年体制」崩壊と重なる。

「55年体制」下で自社は、表面的には対決しながら、テーブルの下では、互いの権益を分かち合ってきた。自民は、高級官僚、経営者、一次産業界の利益を代弁。社会党も地方公務員、公共事業体(国鉄、郵政、電電)から大企業ブルーカラーの権益を守ってきた。

結果を出す、世襲でない政党

リーマンショック以降の経済低迷、小泉改革による非正規労働者の激増が、このシステムでは救済できない層を激増させた。

彼らの怒りは、まず身近にいる身分が安定した上“ろくに働かないのに高給を食んでいる”と思える地方公務員に向かう。

2010年に大阪で産声を上げた維新の初仕事が、府と市現業職員の処遇カットであったことは、不思議ではない。維新に近い河村名古屋市長は市議の給与削減で快哉を浴びた。

維新は、権力奪取の王道である「地方から中央へ」というセオリーに忠実だ。その点で、維新ではないが元大津市長、越直美弁護士のエッセイ(朝日新聞7月7日)は参考になる。

2012年から2期、市長を務めた越氏は、「保育待機ゼロ」の単一争点で当選した。任期中、保育所を54か所、3000人分を新設して待機ゼロ達成、潔く退任した。

彼女は言う。「保育園の整備は、簡単。市民が歓迎するから市議も賛成する。大変なのは、そのために他の予算を削ること」。市長、職員の給与カット、高齢者施策の削減で132億円を捻出した。彼女の結論は、「市長は結果を出せる、見せられるポスト」だ。

維新、馬場信之代表が、「結果を出している。世襲政党でない。改革政党である」をスローガンに掲げるのと、偶然の一致ではないだろう。

身近な生活課題で目に見える変化を産み出す政党と、国会閉幕時に否決確実の内閣不信任案を出すか否かでしか注目を集めない政党では差が出るのは当然だ。

無論、維新にも危険な要素がある。「チョイワル」が過ぎてセクハラなど問題議員も少なくない。なにより維新躍進の土壌が経済停滞、格差社会の深刻化であることを見失ってはならない。