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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

見えてきたトランプ関税
―輸出の消費税還付金が標的―2025.03.01

石破茂首相の初の日米首脳会談は「大成功」の評価となった。予測不能の大統領だけに無理難題を警戒していたが、無難に終わった。それだけで「大成功」ということになる。トランプ2.0(第2次トランプ政権)の「標的リスト」の中で日本の順位は低いから不思議はない。対米貿易赤字の大きさは、トップが中国、ついでメキシコ、ベトナム、アイルランド、ドイツ、台湾、日本の順である。日本がエネミー・ナンバー1だったのは昔の話だ。

ただし、「タリフ・マン(tariff man 関税男)」を自称するトランプ大統領の関税騒動の埒外に置かれたわけではない。トランプ大統領は2月13日、貿易不均衡を是正するため各国に「相互関税」を課すと発表した。ピーター・ナバロ上級顧問らに具体策を検討させ4月初めには決定する。その間に各国と協議して、相手国の出方に応じて関税が「カスタマイズ(国別調整)」されるという。

問題は「米国産品への関税だけでなく、不公正な補助金や規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的財産保護の不備など、米国の貿易を制限する非関税障壁も相殺する」という点だ。トランプ大統領は「例外措置や適用免除を行うつもりはない。例外なくあまねく適用される」と述べており、日本も米国と厄介な交渉をしなくてはならない。日本にとって問題は自動車。昨年の対米輸出の3分の1が自動車と自動車部品であり影響は大きい。

トランプ大統領のいう相互関税は単に税率を同じにするというものではない。不公平な非関税障壁を関税に置き換えて課税するという試みだ。日本市場についてトランプ大統領は先日、記者団を前に「日本は途方に暮れるほどの車両検査をする」と文句を言った。安全基準、環境基準、車検制度、軽自動車優遇などが俎上に上がるだろう。

しかし、今回の焦点は消費税である。消費税は最終消費者が税金を負担する制度だが、相手国消費者に輸出国の税金を負担させるわけにいかない。だから輸出の場合、消費税率はゼロである。しかし、それだと輸出業者は仕入れに含まれる消費税分を自分が負担することになる。そこでその分は国から還付される。2023年度の輸出還付金は大手20社で2兆1800億円。1位トヨタ6100億円、2位ホンダ2400億円、3位日産2280億円などである。

米国はこの輸出還付金は事実上の輸出補助金だと問題視している。主敵はEUだが日本も無縁ではいられないだろう。輸出還付金はWTOルールに適合していると日本やEUは主張しているが米国は受け付けない。消費税をやめるか輸出還付金をやめなければ関税を課す公算が大だ。消費税廃止は論外だから輸出還付金廃止しかなさそうだが、今期800億円の赤字を出す日産など血の気の引く思いだろう。米国はG7で唯一、付加価値税(消費税)がない国なのでこういう主張になる。相互主義というなら米国が消費税を導入したっていいはずだ。

トランプ大統領は第25代合衆国大統領、ウィリアム・マッキンリーを手本にしているそうだ。トランプ大統領によれば「19世紀後半から20世紀初頭、米国は世界で最も豊かな国だった。所得税はなく関税の国だったのだ」。マッキンリー大統領は38%もの関税をさらに引き上げ52%にした「関税男」として名高い。トランプ大統領は「彼は製造業を保護し生産を押し上げ米国の工業化を促進した」と絶賛している。

しかし、本当にそうだったのか。米ピーターソン国際経済研究所(PIIE)によると、マッキンリー大統領による1890年関税法は物価上昇を招き下院議員選挙での共和党敗北につながった、という。大統領2期目にはこれを反省、「貿易戦争はアメリカの利益にならない。善意の政策と友好的な貿易関係が必要だ」と、保護主義を捨てたそうである。トランプ大統領にはそこまで学習してもらいたいものだ。