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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

アメリカ暮らしも楽じゃない
―30年ぶりのワシントン再訪―2024.07.01

たまたま、娘夫婦がテキサス、息子夫婦がバージニアと、それぞれアメリカで暮らしているので、この際思い切って老夫婦でアメリカ旅行に行ってきた。17日もかけたのでクタクタになった。

30年も昔の話になるがワシントンDCに4年ほど駐在したことがある。しかし、その後は一度シカゴ、ニューヨークへ行っただけで、ご無沙汰していた。アメリカに多少の土地勘はあるつもりだったが、あれこれ驚くことが多かった。

なんと言っても物価の高さだ。知識として知っていたが、実際に直面するといまいましい。暑いから何度もペットボトルの水を買ったが、安くても4ドルはする。高いと6ドル。1ドル=150円で掛算すると600〜900円。日本の感覚だと実に理不尽である。

ボストンに寄ったので名物のロブスターロール(ロールパンにロブスターサラダを挟んだもの)をぜひ食べようと思った。ホテル近くの屋台が人気だというので行ってみたら、普通サイズ1個27.99ドル、クラムチャウダー1カップが10.99ドルである。あとで円換算してみると都合5847円。夫婦で1万2000円近い。やれやれ。

OECD(経済協力開発機構)の資料によれば、2022年の従業員1人当たりの平均年収は、アメリカ7万7463ドルである。世界4位。これに対して日本は21位で3万4393ドルだ。つまりアメリカの半分以下。まあ、日本国の低賃金はすでに有名だから驚かないが、やはり情けないね。

しかし、アメリカは収入も高いが物価はそれ以上だから、彼らもラクに暮らしているわけではないらしい。なんと言っても不動産価格が急騰してしまった。家賃も高い。住むところを確保するのに難儀する。

ワシントンDCの南側のバージニアに息子を訪ねたおり、駐在員時代に住んでいたメリーランド州のベセスダという住宅地に連れて行ってもらった。州境のポトマック川を渡ってすぐである。ほとんど昔のまま。明るく閑静な住宅地である。地域の公立学校のレベルが全米1、2という特殊な地域であり、いまも昔も人気が高い。

住んでいた家はペンキを塗り直した程度で変化なし。私が赴任した1991年は日本のバブルが崩壊し始めていたのだが、金融危機はまだ遠く、日本人は繁栄のユーフォリアの中にいた。ジャパンマネーでニューヨークのロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社を買いまくった時代である。

同僚のなかには家を借りるのでなく買う人もいた。私はそういうことは思いもしなかったが、当時住んでいた家は40万ドルの値がついていた。1ドル=120円ぐらいだったから4800万円。好奇心から現在いくらするか調べてみた。ネットで簡単にわかる。113〜134万ドルだそうだ。つまり、1億6900万円〜2億1700万円。

私はバブル世代。その恩恵?でベセスダに住めたが、息子に聞くと「家賃が高すぎてムリ」だそうである。ドルで給料をもらっていてもそうなら、日本円で給料をもらっている日本人は尚更だろう。ベセスダに住んでいる日本人は多分、そういうことを考えずにすむ外交官、商社や金融機関の支店長クラスではないか。はて、私の後輩の特派員はいま、どこに住んでいるのだろう。ま、聞かずにおきましょう。

テキサスの話を少し。カリフォルニアからの人口流入が激しいそうだ。あっちは不動産が高すぎて住みづらくなった。テキサスはまだ空いている。ダラスにトヨタの北米統括本社ができたので取引関係のある日本企業も進出して日本人は4000人を数えるという。

しかし、急増しているのはインド人だそうだ。2万人。一帯を煉瓦塀で囲った大規模な住宅開発が進んでいる。日本なら邸宅と呼ぶべき家ばかり。そのなかには、区画のほぼ全員がインド人というところもある。時分になるとカレーの匂いが漂ってくるそうである。地域の学校で成績のいいのもインド人だそうだ。中国人、韓国人も圧倒されている。どうもインドの時代が来たらしい。