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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

金持ちは民主党に集う
-学歴エリートたちの米国支配-2021.03.21

ニューヨーク市マンハッタンの五番街でひときわ目立つのが「トランプ・タワー」だ。58階建て高さ202メートル。トランプ氏が2016年11月大統領に当選するやいなや、ときの日本国首相・安倍晋三氏が最上階の住居にかけつけ仲良しになったところである。

トランプ氏はいま、フロリダ州のゴルフ場付きの別荘「マーアラーゴー」を住居に定めゴルフ三昧らしい。そして次の大統領選出馬に向けあれこれ画策、発信中である。

一般に共和党は金持ちの党で民主党は庶民の党というイメージがある。トランプ氏のケバいライフスタイルもそういう誤解を増幅した。共和党には金持ちが少なからずいる。だから、まったくの間違いというわけではないが、1990年代以降、事情が大きく違ってきた。

今回はそのあたりの話。これは米国の産業構造の変化、乱暴に言えばデジタル化・情報産業化の進展と同調した動きである。

かつて、米国の富裕層といえば石油、鉄鋼、自動車、金融などで財をなしたひとびとだった。鉄鋼王カーネギー、自動車王フォードが右代表である。父子で大統領になったブッシュ家も石油で当てたクチである。こういう富豪層は伝統的に共和党である。

しかし、いま米国の金持ちの主流を占めているのは、IT(情報技術)を軸とする先端産業に携わるものたちである。キーワードは「高学歴」だ。大学(院)で頭脳を訓練され高度な知識を入手できた人々。

わかりやすいところで、世界の情報技術産業を支配する「ガーファ(GAFA)+M」つまりグーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)そしてマイクロソフト(Microsoft)の創業者をみればよい。いずれも世界の大富豪リストの最高位近辺。

三菱UFJ銀行が2022年春の新卒採用から、デジタル技術に優れた人材については年収1000万円以上を出すそうだ。一律300万円をやめる。世界標準に近づくが動きが遅い。米国カリフォルニア州のIT産業の集積地シリコンバレーでは、年収10万ドルつまり1050万円でも暮らせないそうだ。IT関連の金持ちだらけだから家賃が法外に高い。

米国で有名大学の修士や博士号を取得したものは普通、年俸10万ドルから20万ドルを提示される。米国の若者が年間授業料500万円とかを借金してまで大学に進学するのは、そうしないと一生貧乏なままだからだ。

「高学歴」は出身階級を問わず入手できる「能力」の証明である。米国の富を生み出しているGAFA等の高給企業に入社するには、家柄は役に立たず高学歴が必要だ。米国はもともと能力主義の国だが、こうした高学歴エリートが学歴の低い人々を見下す社会になった。

フランスの人口学者エマニュエル・トッドが文藝春秋で言っている。‹高学歴エリートは、「人類」という抽象概念を愛しますが、同じ社会で「自由貿易」で苦しんでいる「低学歴の人々」には共感しないのです。彼らは「左派(リベラル)」であるはずなのに、「自分より低学歴の大衆や労働者を嫌う左派」といった語義矛盾の存在になり果てています。「左派」が実質的に「体制順応主義(右派)」になっているのです›

これが白人の低学歴層の反発を招き、2016年大統領選でトランプが勝利した原因。すでに定説である。見方を変えれば、民主党を支えるのは今日、もはや左派ではなく右派ということである。

それを象徴するようなニュースがあった。バイデン政権で財務長官に就任したジャネット・イエレン(米連邦準備制度理事会=FRBの前議長)。彼女はこの2年間、金融機関への講演50回で7億円以上受け取っていた。このうち8200万円は例の株価大波乱の「ロビンフッド事件」で暗躍した「シタデル証券」からだ。賄賂じゃないの?

ホワイトハウスのサキ報道官はこの「疑惑」を問われて答えた。「能力があるんだから当然よ」。民主党はもう庶民の党ではないのだ。