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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

五輪開会式でドローンが大好評
-殺人兵器としても拡散中-2021.08.01

ケチがつきまくりの東京五輪だが、開会式は見ましたか? 開会式のテレビ視聴率はなんと56.4%。1964年の東京五輪開会式61.2%には及ばなかったが、同じくゴールデンタイムに行われた北京大会(37.3%)を大きく上回った。たかが五輪、されど五輪である。

インテリはあれこれ悪口を言うが、評判もそれなりによかったのではないか。とくに、競技種目の絵文字(ピクトグラム)50競技をパントマイムで演じてみせたのは、外国メディアにもウケがよかった。

もうひとつ拍手喝采だったのが1824台ものドローンを使った空中ショーだ。夜空に巨大な市松模様の五輪エンブレムと地球を描きだした。「さすが技術大国ニッポン」と誇らしく思った人も多かったらしい。

しかし、実際は米国のインテル社の技術である。PCに貼ってある「Intel Inside(インテルはいってる)」で知られる半導体メーカー。ソニーでもなければパナソニックでもない。

インテル社の「Shooting Star」というドローンシステムだそうで、PC1台で操作できる。インテルによれば「1機の重さは約300グラム。高精度LEDにより、鮮明で境界のない明るさが実現する。また、特に細かいグラフィックスの表現ができるようになっている。ソフトウェアのさらなる進化とこのハードウェアにより、安定性の向上とバッテリーの長寿命化が実現した」そうである。

インテルはこのシステムを各種イベントに売り込んでおり、2018年に韓国・平昌で開かれた冬季五輪の入場式でも使われた。この折は1218機。費用は結構かかる。インテルのホームページにはイベント料として500機で最低29万9000ドル(3300万円)とある。東京五輪開会式には1億円以上かかったのは確実だ。

ドローンによる大規模空中イベントはインテルの独占物ではない。先日、中国各地で「中国共産党創設100周年」の祝賀イベントが行われたが、深セン市福田区のショーはなんと5000機以上を動員するド派手なお祭りになった。You Tubeで「深センドローンショー共産党100年記念」と打ち込めば出てくるので是非ご覧になるよう。たいしたスペクタクルである。

ドローンの使用には各国とも厳しい規制がある。日本は空港周辺や都市部では原則使用不可だし、田舎でも高度150メートル以上を飛ばすには許可がいる。それでも用途は広がっており、刑務所や工場の巡回警備にも使われている。今夏の航空法改正で有人地域で飛ばしやすくなり細則を検討中だ。ソニーやヤマハなどのメーカーも有望分野と見て新製品を続々と売り出している。

しかし、使い方次第で物騒な代物になることは実証済みだ。2017年3月、ウクライナに軍事介入したロシアは東部バラクリアの弾薬庫にドローンを飛ばし、手榴弾を投下。それだけで約7万トン(10億ドル相当)もの弾薬をふっとばす大戦果をあげた。

米国もやることがどぎつい。昨年1月、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローン攻撃で爆殺した。トランプ大統領は「米国へのテロを計画していた」と言っているが正当化できるかどうか疑問だ。

その4か月前の2019年9月には、サウジアラビアの石油施設が反政府フーシー派のドローン攻撃を受け大被害を出した。ドローンはプロペラは中国製、GPSセンサーはウクライナ製、制御装置は韓国製だったそうで、秋葉原で買えるレベルらしい。サウジは米国からパトリオットなど高価な防空システムを買ってハリネズミのように守りを固めているが、ドローンは小さく低空飛行なので迎撃が難しい。仮に撃ち落とせたとしても迎撃ミサイルは1発4億円もする。

ドローンについては空撮や宅配、警備等の民生利用にわれわれの関心は向いているが、一方で中国や米国を先頭に軍事利用が広がっている。五輪開会式がそこに目を向けるキッカケになれば、大金をかけた甲斐があったと言うべきだろう。