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「知」に備えあれば憂いなし

潮田道夫の複眼時評

潮田道夫 プロフィール
東京大学経済学部卒、毎日新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員、経済部長、論説委員長などを歴任し退社。現在、毎日新聞客員論説委員。内外の諸問題を軽妙な筆致で考察する「名うてのコラムニスト」として知られています。著書に「不機嫌なアメリカ人」(日本評論社刊)、「追いやられる日本」(毎日新聞社刊)など。

中国のゼロコロナ失敗で世界危機?
-2022年10大リスクを読む-2022.02.01

社債や国債の格付け会社というものがある。海外の企業や国家が発行した債券がいい利回りだから買ってみようか、いやいや、聞いたことのない名前だからやめておこう――。財務運用責任者は思い悩む。そういうとき、ムーディーズとかS&Pとかの格付け会社の評価・格付けが役立つ。企業や国家の財務状況をウォッチしている専門家がリスク評価をしてくれる。

しかし、債券でないとどうか。海外拠点を作るとか大型プロジェクトに出資するとか、海外絡みの案件は増える一方だ。米国の「ユーラシア・グループ」というコンサルティング会社はそういう需要に応えるため、米国のイアン・ブレマーという政治学者が1998年に創立した会社で大成功している。

各国の政治情勢や地政学的リスクがどうビジネスに影響してくるか分析し、顧客企業に定期的に情報提供する。また、個別案件についても綿密な調査をして報告する。顧客企業は世界に約300社、うち日本企業は約60社という。

決して安くはないであろう顧問料を払い続けているのだから、その情報はコストに見合う価値があるのだろう。詳述しないが2011年にブレマーが発表した「Gゼロ」という概念(ポスト米国の世界はG7もG20も機能しないリーダーシップ不在の世界となる)はバカ受けし、今や国際政治学の共通認識だ。

頼みはロックダウン

前置きが長くなったが、ユーラシア・グループは毎年、世界の「10大リスク」を発表しており大いに注目されている。2022年版はその第1位に、中国の「ゼロコロナ」政策の失敗を挙げた。中国が新型コロナウイルス(オミクロン株)を完封できず、経済が混乱し世界を不況に巻き込む、というものだ。常識的には「米中新冷戦」とか「台湾有事」とか思いつくが、そういう手垢のついたのは挙げない。実に商売がうまい。

確かに中国の「ゼロコロナ」は欧米先進国が「ウィズコロナ」(コロナウイルスとの共存・共生)にカジを切ったなか異彩を放っている。ユーラシア・グループは「中国は初期のゼロコロナ政策が成功し、それを習近平主席の個人的な手柄にしてしまったことで、今さら軌道修正ができなくなった。これではこの先感染を抑制できず、より大規模な集団感染が発生して、もっと厳しいロックダウンが必要になる」と失敗を予測している。

致命的なのは中国のワクチンが「不活性化ワクチン」なことだ。接種率は90%を超すが日米欧の「メッセンジャーRNAワクチン」に比べオミクロン株への防御力が格段に低い。このため、オミクロン対策ではロックダウン(都市封鎖)に頼るしかない。人口1300万人の西安市をはじめ主要都市の閉鎖が相次ぎ全土に社会的不満・不安が広がっている。経済成長率も4%にダウンするなど黄信号が点滅する。

2月4日からは冬季北京五輪が始まる。東京五輪を思い出すとこれはもう悪夢というしかない。海外客はシャットアウト。五輪に支障が生じれば習近平の命取りになりかねない。中国の混乱は反中派には面白いだろうが、日本経済はドスンと落ち込むだろう。

さて、この手の新年予測では英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ」版も有名である。「2021年版では20項目のうち17項目で当たった」と豪語している。そのコロナに関する見通しだが、非常に不吉なものである。「22年の新規感染者は数十億人に上る可能性があり、さらに感染力の強い新たな変異型が登場しない方がむしろ驚きと考えた方がいい」。やれやれ。

ユーラシア・グループの予測の2位以下に関心のある向きのため、項目だけ挙げておこう。(2)巨大IT企業に強く影響される世界(3)アメリカの中間選挙(4)中国の内政(5)ロシア・ウクライナ情勢(6)イラン核開発(7)環境政策(CO2ゼロ目標による混乱)(8)世界の力の空白地帯(アフガニスタンなど)(9)文化戦争(環境、人権)に敗れる企業(10)トルコのエルドアン政権。