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ストップ労働災害2017.11.21

全国産業安全衛生大会in神戸

11月8〜10日の3日間にわたり、神戸市内で第76回の「全国産業安全衛生大会」(主催=中央労働災害防止協会、後援=厚生労働省ほか)が開催された。全国のあらゆる業種・職場の安全衛生担当者など約1万人が集う同大会では、昨年に続き警備業からも労働災害防止へ向けた取り組みが報告された。

  

命を守るための1秒 新成警備保障 梶岡繁樹さん

「交通安全分科会」での全発表者中、最初に演台に立った新成警備保障(兵庫県神戸市、西山一彦社長)の専務取締役・梶岡繁樹氏は「高速道路における交通規制実施時の安全管理について」と題して発表した。

梶岡氏は、5年前に同社で発生した事故――高速道路での車線規制準備中、道路標識車に一般の大型車両が追突。同車両が前方約50メートル先で作業をしていた警備員に激突して4人の警備員が被災――を契機に、取り組んだ安全対策について説明した。

同社では事故を分析し、原因として(1)相手側大型車の脇見運転(2)速度超過(3)作業が視認性の悪い深夜時間帯――を挙げ、再発防止策を講じた。具体的には、作業予告用のために使用する発煙筒を増量し、燃焼時間を3分から5分のものに変更。道路標識車は、車線規制を知らせる電光表示板を、従来は「矢印」だけの表示だったものから、LEDタイプの「この先工事中」など文字を表示できるものに変更、一般車両への注意喚起能力を強化した。さらに、後方を警戒・監視する警備員を新たに配置した。

高速道路での交通誘導警備業務では、ひとたび事故が発生すると前記事故のような想像を絶する被害が発生することから、同社では継続的な事故防止活動の必要性を痛感。その結果、「教育」「打ち合わせ」「設備」「その他」――の4項目の対策強化に取り組んだ。

警備員教育の充実では、作業マニュアルを改訂、より詳細なものとした。具体的には、5人1組で行う作業について、それぞれの作業を“並列表記”し、同僚・パートナーがどういった作業を行っているかを全員が把握できるようにした。また、リスクアセスメントを取り入れ、規制予定の現場付近の様子を作業前に動画撮影し、配置される警備員が事前に現場の形状やカーブ角度、勾配などを把握できるようにした。

規制実施前ミーティングの徹底では、事前打ち合わせ時に規制作業での各人の役割や作業手順の詳細な再確認を行うとともに、これにKYT(危険予知活動)を加えた。また“一声掛け運動”を取り入れ、ヒューマンエラーの防止を図った。

設備面では、最新の資機材の導入に取り組んだ。電光表示板の高輝度・LEDタイプへの変更はもとより、後方の作業状況を確認するためにバックカメラを、どのような規制作業を行っているのかを記録して今後の教育に生かすためにドライブレコーダーを、それぞれ車両に搭載した。さらに、資器材を管理する部門を新たに設置、専従者を配置し、常に資器材が本来の機能を発揮できるようにした。

梶岡氏は「車が1秒間に進む距離は約22メートル。この1秒をいかに作っていくかが勝負。これを会社では“命を守るための1秒”と呼んでいる。この1秒の確保のために今後も安全管理に取り組んでいく」と述べ、発表を締め括った。

色塗り、シール…図上演習 近畿警備保障 松尾浩三さん

「防災・危機管理分科会」では警備業から唯一、近畿警備保障(岡山県岡山市)・代表取締役社長の松尾浩三氏が発表した。演題は「危機管理と人材育成における継続的改善の重要性について」。

同社は東日本大震災をきっかけにBCP(事業継続計画)を作成、朝礼や月1回の全体ミーティングなどで、災害時の避難方法や連絡手段などの対処法について訓練を行ってきた。しかし、自身が出張時に遭遇した熊本地震によって、これまでの訓練だけでは十分ではないことを実感。よりリアルな実戦的な訓練を模索する中、防災士の資格取得の過程で知った「図上演習」にたどり着いた。

松尾氏は図上演習について「誰でも参加しやすく、積極的に討議ができる。そのために現実をイメージでき、最良の行動を考えるのに最適な手法」と述べ、同社で行っている訓練の手順を説明した。

準備するものは、会社周辺の縮尺1万分の1程度の地図、油性ペン、メモが書き込める程度の大きさの付箋、丸形のカラーシール、自治体発行のハザードマップ、ビニール製の透明シート(透明のテーブルクロスなど)。進め方は、(1)6〜10人程度のグループを編成し、進行役や発表者、書記などの役割分担を決める(2)地図に本社や営業所を丸形シールでマークし、街の特性を知るために道路や鉄道、河川、山などを色分けして塗っていく。さらに自宅やよく出かける場所、指定避難場所、病院、警察署、消防署などをシールでマークする(3)透明シートにハザードマップを元に津波や洪水の被害が想定される場所を色分けして塗っていく(4)地図の色分けを元に想定されるリスクと対策を付箋に書いていく。

松尾氏は、ペンやシールを用いて地図に危険箇所などを書き込み、グループ討議を通じて対策を導き出していく同訓練について「参加しやすく、仲間意識が芽生え、意見が出しやすい」と評価。実際、グループ内でのコミュニケーションが図られ、控えめな社員が積極的に参加する姿も見られたという。同氏は「個々の意識のレベルアップが会社の危機管理のレベルアップにつながる」と述べ、近い将来発生するといわれる南海トラフ地震に備え、演習を通して「防災」「減災」「労働災害ゼロ」に取り組んでいくとした。

  

「ゆで卵は生卵に戻せない」 キステム 髙木雄太さん

「第三次産業分科会」では、キステム(東京都台東区、開發一行代表取締役社長)の警備事業本部・髙木雄太氏が「熱中症予防大作戦」と題して発表した。

同社では、過去の熱中症発生や厚生労働省が警備業を「熱中症予防策重点業種」に指定したことなどから、全社的な熱中症対策を行った。取り組みは(1)社員の熱中症対策講習の受講(2)受講内容の全社員への周知(3)現場警備員への熱中症対策用品の配布――の3点。

熱中症対策講習は、社員、特に現場警備員に指示や各種連絡を行うデスク社員(管制)のうち、経験の浅い若手社員に労働基準協会が行う講習を受講させた。現場警備員と管制との連絡は常時電話で行うが、経験の浅い社員が熱中症発生の電話を受けた場合でも、的確な指示を出せるようにするのが狙いだ。

講習を受講した社員からは「初めて知ったこともあった」という声をはじめ、熱中症の疑いのある人への対応(帰宅させるよりも病院で受診させる場合も必要)など、熱中症と予防対策や応急処置の理解促進につながったようだ。

受講内容の社員への周知では、現場巡察時や現任教育時などを利用した。特に現場で周知する際には、極力“勉強的”な色合いを排し、熱中症の怖さを「ゆで卵は生卵に戻せない」という言葉で説明。熱中症で脳が熱でやられると、ゆで卵が生卵に戻せないように、たとえ命が助かったとしても深刻な後遺症が残ることを現場の警備員に分かりやすく教育した。

教育と同時に同社が取り組んだのが、熱中症対策用品=制服の下に着用する「水冷却ベスト」の全警備員への配布だ。配布対象の警備員は1000人。

発注が遅れたため、ベストが会社に届いたころにはもう暑い日が多くなり始め、早急な配布が急務となった。このため、全デスク社員が、チェックリストに基づいて配布。その結果、当初予定していた配布期日までに全数を配布することができた。

しかし、一部の現場から「ベストは効果がない」という声が伝わってきた。現場に確認に行くと、制服の上から着用するなど間違った使用が見られた。説明書も付けて配布していたが、慌ただしい配布だったために、使用法を理解したかどうかの確認が行われていなかったのだ。

このため、「効果がない」と訴える人のリストを作成、デスク社員が説明に回った。

取り組みを振り返り髙木氏は「以前は現場警備員とデスク社員とは事務的な電話対応だったが、一連の熱中症対策を通し、若手デスク社員と現場警備員との会話が弾むようになった」と、副次的な効果もあったことを付け加えた。