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「労働時間は通算で」2020.09.11

厚労省 副業・兼業ガイドライン

厚生労働省は9月1日、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定、公表した。2017年に決定した「働き方改革実行計画」で政府は、1人で複数の仕事を掛け待ちする「副業・兼業」を普及・促進する方針を打ち出した。同方針を受け厚労省は、2つの審議会で労働時間管理と健康管理のあり方について検討を進めていた。

ガイドラインは、従業員が安心して副業・兼業できるよう、労働時間管理や健康管理など企業の対応を示した。また、簡便な労働時間管理の方法を「管理モデル」として示した。

労働時間管理については、従業員が事業主の異なる複数の事業場で働く場合でも、労働時間を通算して管理することを求めた。通算する労働時間は、自社の労働時間と従業員から“申告”などで把握した副業先で働いた労働時間。通算して法定労働時間を超えた部分が時間外労働となる。

従業員が副業を行う前に、自社と副業先の所定労働時間を通算。法定労働時間を超える部分がある場合は、超過部分は後から労働契約を締結した会社(副業先)の時間外労働となる。また、副業後に通算した所定労働時間に加え、自社と副業先の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算。法定労働時間を超える部分が時間外労働となる。

時間外労働の割増賃金は、労働時間の通算によって時間外労働となる部分うち、自社で労働させた時間分についてのみ支払う必要がある。

健康管理については、副業・兼業の有無に関わらず、定期健康診断や長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックなどを実施する。

労災保険は、全就業先の賃金額を合算して給付額を算定。また、全就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災か否かの認定を行う。副業・兼業先への移動中に発生した災害は、「通勤災害」として労災保険給付の対象となる。

「副業・兼業」の希望者は年々増加。目的は「収入増」や「現在の仕事で必要な能力を活用・向上させる」――など。その形態も正社員やパート・アルバイト、会社役員、起業による自営など多岐にわたる。

副業・兼業に関する裁判例では、従業員が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には従業員の自由とされ、企業が制限できるのは「業務上の秘密が漏えいする」などに限定されている。

特集ワイド2020.09.11

災害に備える「資格」

民間資格の「防災士」、「防災介助士」は、それぞれ取得を通じて災害に対する知識や救命活動の技能などを身に付けることができる。昨今は地震、豪雨、台風などの自然災害が相次いで発生し、警備業は“防災スキル”を一層高めるための取り組みが求められている。2つの資格の内容と取得を進める警備会社の取り組みを取材した。 

取得進める警備会社も

防災士の資格制度は、阪神・淡路大震災で行政機関が被災し初動の救助活動などが制限された教訓から“民間の防災リーダー”をより多く養成することを目的に2003年にスタートした。東日本大震災以降、取得者は大幅に増加し、19万7229人(8月末現在)を数える。

これまで累計で450余りの自治体が資格取得に助成金を出すなどして、住民による自主防災組織や学校、福祉施設、事業所などに防災士の配置を進めてきた。近年、熊本地震や西日本豪雨などで被災した地域の人々が取得する例も増えている。

日本防災士機構の橋本茂理事・事務総長は、警備員による資格取得の効果として「研修を通じて災害への対応力が高まる。公共施設など多くの人が集まる場所で的確な避難誘導を行うために必要な危機管理の知識を学びイメージトレーニングができる」と話す。

防災士の研修カリキュラムでは、避難所の運営についても学ぶ。橋本理事は「避難所を開設するのは行政、自治体だが、運営は住民が行うべきもの。コロナ禍を受けて避難所では感染症の拡大防止対策が重要になるため、そうした運営のノウハウが身に付く研修を行っている」と述べた。

災害時に警備業が自治体との支援協定に基づいて行う警備業務として、被災地での侵入窃盗などを防止するパトロールと、避難所の安全確保がある。警備業者が同資格の取得を通じて防災知識を増やし、より高度な専門性を備えることは、警備業の発言力や評価を高めることにつながる。

警備会社の管理職などが同資格を取ることにより、教育の中で災害時の的確な行動などを詳しく説明し、防災意識を向上させることができる。

警備会社では、テイケイ(東京都新宿区、影山嘉昭代表取締役)が同資格の取得を進め、警備員1000人以上が取得し、警備を担当する施設などに帰宅困難者を受け入れる想定の訓練を行った。

セコムグループのセコムトラストシステムズ(東京都渋谷区、林慶司社長)は、社員100人余りが同資格を取得した。同社は、大規模災害対策(事業継続計画=BCP)として企業などに「初動マニュアル作成支援」「防災グッズ管理」「安否確認」「緊急連絡網」など各種サービスを提供している。資格者は、営業やサービスの開発・運用などで防災についての幅広い知識を役立てている。

高齢者・障害者対応 身に付ける

防災介助士は、災害対策について学ぶとともに負傷者、高齢者、障害者への適切な対応を身に付ける資格として、東日本大震災の翌年2012年12月に日本ケアフィット共育機構が始めた。取得者は1200人にのぼる(8月末日現在)。

同機構によると、東日本大震災では被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者が約6割、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍だった。これを受けて、災害時に自力で避難することが困難な高齢者、障害者を「避難行動要支援者」として、自治体が名簿を作成することが災害対策基本法で義務付けられている。

同機構の高木友子理事・事務局長は、警備業での防災介助士のニーズについて「各種施設など警備先からの要望を受けて取得する警備員が増えている。非常事態が起きた時、自分の身とともに高齢者や体の不自由な方を守るためには、専門の学びが必要になる。資格者が増えることは、“防災におけるバリアフリー化”につながっていく」と話した。

警備業界では、KSP(横浜市、田邊中社長)が、今年4月から防災介助士の資格取得に取り組んでいる。本社とグループ会社のKSP・EAST、KSP・WESTの幹部と警備員50人ほどが取得した。

同社育成推進室・長谷川清顧問は「警備員が防災介助士の資格を持っていることは、民間企業が行う競争入札などで、自社の災害対策への意識や“ホスピタリティー”を強調する好材料になる。こうした資格取得の促進は、警備員のスキルを高め付加価値を与えるとともに、ビジネスチャンスを広げるものと考える」と話した。