クローズUP
特集ワイド 「平昌」警備を「東京」へ2018.3.21
セコム(東京都渋谷区、中山泰男社長)、ALSOK(港区、青山幸恭社長)は、それぞれ2月9〜25日に開催された「韓国・平昌(ピョンチャン)オリンピック」、3月9〜18日の「同パラリンピック」を視察した。2社は今回の視察結果を精査し、“オールジャパン体制”で臨む「TOKYO2020」の警備に活用する。
セコム
ヒューマンチェーン
セコム・岡田勇一マネージャーにオリンピック警備の話を聞いた。同氏はソチ、リオ両オリンピックの視察も担当した。
競技会場への主要交通手段である「韓国高速鉄道(KTX)」の乗車時には、X線による手荷物検査を受けゲート型金属探知機を通過する。セレモニー会場最寄りの珍富(ジンブ)駅では北朝鮮の視察団が到着する間際の状況に遭遇。圧倒的な人数の警察官が“ヒューマンチェーン”(人間の鎖)を組み、人海戦術の警備を行っていた。
街中で行われた文在寅(ムン・ジェイン)大統領に抗議するデモ活動に対しても、増員された警察官が同様にヒューマンチェーンを作り警戒していた。
バス待ちに長蛇の列
駅からセレモニー会場近くまでバスや車で移動し、そこからシャトルバスで会場に向う「パークアンドライド方式」がとられていた。バス待ちではかなり長蛇の列ができ、寒い中、過酷な状況だった。その原因として、道路の渋滞によるバス到着の遅延があった。
民間警備員も活躍
オリンピックパークを含め会場の外周はフェンスで覆われ、出入口は一方通行で逆流がないよう「SECURITY」と背中に書かれた黒い制服を着た民間警備員がチェックしていた。
開会セレモニーが行われたオリンピックスタジアムの入場口にはレーンごとに持ち物検査の列ができていたが、30分程で吸収され、大きなストレスは感じなかった。入場時には警察官による荷物検査とゲート型金属探知機による検査が行われた。X線による荷物チェックは民間警備員が担当していた。エリア内に入場する車両の検査は、民間警備と警察官が混在して行っていた。
民間警備・警察・ボランティアともに全員が若年層。民間警備員は、警備専門学校の学生を多数動員していたという。
女性には女性による警備
女性の入場者の検査は、女性の警察官・民間警備員が担当し、スムーズに機能していた。
持ち込み検査終了後は、ボランティアが入場チェック時にチケットのQRコードをハンディスキャナーで読み取る方式。韓国はスマホ普及率が高く、紙チケットと同じぐらいスマホ上のチケットが使われていた。
少なかった防犯機材
車両突入を阻止する機材のバリケードは、見かけなかった。見かけたのは、「進入禁止」レベルの脆弱な機材のみだった。
監視カメラはエリア内でPTZタイプ、全方位タイプを見かけた。大会のために通常の監視カメラに追加して設置されていたが、全体的に数は少なかった。
岡田氏は「警備内容としてはは総じてオーソドックスな手法だったが、要所に警察官を大量に動員し民間警備員、ボランティアもバックアップして安全を確保していた」と総括した。
ALSOK
テロ警戒少ない市街
ALSOK営業企画部東京オリンピックパラリンピック推進室・中野雅弘課長代理、同・野田俊治氏にパラリンピック警備の話を聞いた。
仁川(インチョン)国際空港では入国審査に外国人が約300人滞留しており、スタッフが誘導していた。鉄道駅も含め、市街にロッカーやゴミ箱を封鎖するテロ警戒の手段はみられなかった。
競技会場まで運行するシャトルバスには約500人もの長蛇の列ができていた。バスの行き先も含め案内板はハングル文字で、外国人にはわかりにくかった。英語の案内もあったが小さくて読みづらいものだった。シャトルバスは、車椅子の人の乗車には対応していなかった。
障害者へのケア不足
アルペンスキー競技会場では、関係者の車で車椅子の観戦者を輸送していた。またカートの後ろに後付けのBOXを付けて、車椅子の人を運搬する方法もとっていた。
会場のバリアフリーは後付けでスロープなどが造られており、移動に支障がない基準に達していた。車椅子の観戦者は、コンコースに作られた特設の専用スペースで観覧していた。トイレはその近くに設置されていた。
一方、ボランティアスタッフは、杖をついている歩行困難な高齢者に対して声掛けなどのサポートがなかった。全体的に障害者や高齢者に対するケアは不足している印象だった。
検査なしの入場目撃
競技会場への入場検査は、1レーンにつき4人体制で誘導案内、モニター監視、回避接触検査を行い、障害者のレーンは別に設けられていた。観戦者が多い競技では入場時、競技開始に間に合わなくなりそうになったとき、1レーンのみ検査なしで通すシーンを目撃した。
中野、野田両氏はこれまでにスポーツイベントなどのボランティア体験者。今回の視察で、次のような感想を持った。
「『警備とボランティアの融合』がTOKYO2020のテーマの1つになる。ボランティアの立場を身をもって知ることで調和につなげたい」(中野氏)。
「円滑な運営を行うため言葉が通じない外国人には、視覚に訴えるピクトグラムのような絵の案内が必要と痛感した」(野田氏)。