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クローズUP

セコム 飯田亮さんに聞く2020.4.1

1964年の東京五輪「エネルギーをくれた」

「1964年の恩返し」――セコムの創業者で最高顧問の飯田亮さん(87)は、本紙・元旦号の年頭所感で「東京2020」への想いを明快な一言に込めた。日本で初めて警備会社を立ち上げて2年目、前回「東京五輪」の選手村などの警備は、その後の大躍進の礎となった。56年を経た『今昔の感』を聞きたくて渋谷区の本社を訪ねた。時あたかも、世界に蔓延する<<コロナ禍>>で五輪の延期が決まったばかりだった。

選手村跡は“古戦場”

本社ビルの18階。最高顧問室の広いガラス壁からは、代々木公園を望むことができる。「64年秋・東京五輪」の選手村の跡地である。話は56年前の昔にタイムスリップすることから始まった。

「もう半世紀余り前のことだよ…あれこれ、話すことは、すぐに、思いつかないよ」と飯田さん。それでも草創期の日々は、しっかりと脳裏に刻まれていた。

「選手村の警備をした代々木公園を見ると、感慨にふけることはあるよ。当時の私と仲間にとって、あそこは<<古戦場>>だったんだ…。自分で言うのもなんだが、新しいものを作るのだという意気込みと迫力は並じゃなかったと思うよ。

あの時、東京五輪を任せた林忠男(故人)という古武士を思わせる警備隊長がいてね、『オレたちも、飯田と共に新しい仕事を自分たちで作るんだ、やるぞ!』と気合を入れて、先陣を切ってくれた」

◇五輪に配備した警備士はピーク時100余人。それまでの倍近い人員増だった。飯田さんは現場を一日も休まずに回り、隊員を激励した。頭をかすめたのは、閉幕後に余剰人員が出るのではないか、との思いだった。

「元来、もの事を前向きにとらえて、楽しんじゃう性分でね。一生懸命やればなんとかなるんだと、明るい気持ちでバーンと前に進んだ感じかな。後ろ向きに考えちゃダメだね。苦労もあったけど、五輪の警備でセキュリティーという一つの企業体が出来上がった。64年の五輪は、セコムだけでなく、日本全体に計り知れないエネルギーを与えてくれた。そういう意味での恩返しなんだ。

二度目のオリンピックは、警備業にとって、こんなチャンスは、もうないよ。新しい時代にふさわしい姿、もっと言えば、新しい警備業を誕生させる飛躍の好機にしなくては…。

新国立競技場を設計した隈研吾さんと話す機会があってね。彼は、気持ちを新たに、未来を見つめ、設計に取り組んだそうだ。行き着いたのが、木の温もりをモチーフにした『杜のスタジアム』だった、と…。新味のないことをやってちゃ、ダメだね」

信頼の仕切り直し

◇そこへ降って湧いたコロナ禍。安倍内閣の官邸は、情報発信の稚拙さを含め、危機管理に対する脆弱性をさらけ出したように見える。五輪の開催について安倍首相は、縮小せず、観客も一緒に感動、という大雑把な「形」で、1年延期にこだわった。コロナの騒動と出直しの五輪にテーマが移ると、飯田さんは、<<信頼>>という語句を何度も繰り返しながら、警備業界にエールを送った。

「五輪の延期、今の状況では、やむを得ないと思うよ…。コロナの対応で、大事なことは、為政者が国民の信頼を得ることに尽きる。国民は政府を信頼しているだろうか?、大丈夫か?という疑心暗鬼が広がり、心を暗くさせ、うつむかせてはいけないよ。国民は『まずいな、こんな毎日がいつまで続くのか』と感じているのは確かだね。

コロナはコロナ、オリンピックはオリンピック、五輪の準備は仕切り直し、俗にいう『がらがらぽん』が求められるのじゃないか。言うは易いが、簡単なことじゃない。でも、それをやらないと、オリンピックはうまくいかないね…。

警備業に係る者すべてが、信頼を寄せて仕切り直せば、そこから新しい五輪警備の姿が見えてくると思う」

◇話題は、セコムが協賛した昨秋のラグビーW杯にも及んだ。飯田さんは、湘南高時代、ラグビーの司令塔役・スタンドオフ(SO)で活躍したラガーマンである。大健闘の日本代表チームが随所で見せた『信頼のオフロードパス』(タックルを受けて倒れながら、背面の仲間にボールを返し、パスをつなぐ高度な攻めのこと)を引合いに出し、「あれこそ、信頼の成せる技、チームの絆を象徴するプレーだったね」と言った。締めくくりは、自社への思いだった。

「セコムも時代の経過とともに変わってきたよ。でも、進取の精神と変革のエネルギーは引き継がれていると思う。今、飯田なんて出て行っちゃだめだね、現役の皆が信頼を寄せ合い、知恵を出し、へこたれずにやってくれるよ…。

苦しさをバネにして、前進するための原動力を作り出す――試練は人を成長させるものなんだと言ってきたのでね」。

特集ワイド 最新の警備「顔認証」2020.4.1

警備業は新しい技術を取り入れ進化する。先端技術の一つ「顔認証システム」は今春、成田空港で搭乗手続きの簡素化に導入される。東京五輪・パラリンピックでは、全会場で関係者の入場管理に活用が決まっている。顔認証技術で世界トップクラスとされるNEC(東京都港区、新野隆代表取締役執行役員社長兼CEO)を取材した。

顔認証は、身体的な特徴に基づいて本人を認証する「生体認証技術」の一つだ。顔には、目、鼻、口など、さまざまな「特徴点」がある。これをコンピューターが分析して、識別を行う。一人ひとりの指紋が違うように顔の特徴も異なるため、“なりすまし”を防ぐことができる。

例えば、施設に入ろうとカメラの前に立つ人物の顔と、事前に本人の承諾を得てデータベースに登録してある顔情報とを照合し、同一人物か判定する。

従来は警備員が来場者に身分証の提示を求めて本人確認を行う必要があるが、システム導入後は、カメラを通じて瞬時に本人確認が完了する。これにより警備員は手荷物検査など別の対応に専念することができる。目視よりも厳格に、迅速に本人確認することが可能だ。入場者が多い場合も滞留することを防いで円滑に入場できる。

NECの顔認証システムは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が行う認証精度の評価試験で、第1位を5回獲得した実績を持つ。同システムの事業展開に携わる同社デジタルプラットフォーム事業部エキスパート・山田道孝氏に、顔認証の課題や活用について説明してもらった。

「人が日頃、顔を見て相手を判別する過程を実現した技術が顔認証システムです」と山田氏は話す。同システムには、次のような課題があるという。(1)データベースの登録人数が増えるにつれて、顔の特徴が似ている人も増え、認証が難しくなる(2)経年(加齢)による顔の変化、表情や顔の向きなどに影響されることがある――の2点だ。

(1)については、人数の増加に左右されない精度が求められる。同社の製品は、NISTの評価試験で、登録人数1200万人で認証を行ったところ、エラー率はわずか0.5パーセントだった。

(2)について、山田氏は「顔の変化に影響されないことはシステムの重要な要素です」と強調する。経年変化の試験で、同社の製品は、0〜2年前の顔画像でエラー率は0.7パーセント、15〜18年前の顔画像であっても2.7パーセント(310万人登録時)にとどまった。

精度が高い生体認証として指紋認証や虹彩認証が知られているが、顔認証はそれに近づきつつあるという。また、機器に指をかざすなどの動作が不要な「非接触」も特徴の一つだ。

昨今は新型コロナウイルス感染症の予防策で“接触しない”ことが重要視される。この点について山田氏は「もともと非接触で行う認証へのニーズはありました。マンションのオートロックなどで指紋認証を行う場合に、不特定多数の人々が触った部分に触れることに抵抗を感じる方は少なくありません。手袋をしていれば脱ぐ必要がありますが、顔認証ならその手間も省けるのです」と述べた。

マスクしても照合

現在、同社はマスクを着用したまま顔認証を行うシステムを社内で運用している。これはマスクに隠された部分以外の「顔の特徴点」を照合する仕組みで、すでに一部の製品では提供を開始しており、来年度以降さらに多くの製品での提供を予定している。

成田空港では今春から顔認証による搭乗手続きの新サービス「OneID」が始まり、同社の技術は成田空港で採用される。同サービスは、利用客がチェックインの際に顔写真を登録すると、パスポート情報、搭乗券情報がシステム上でひも付けされ、以後は「顔」だけで手続きができる。保安検査を受ける時も、搭乗ゲートを通過する時も、パスポートや搭乗券を出して目視で確認してもらう必要がなくなる。利用客は搭乗までの時間が短縮され、保安検査員、航空会社のスタッフなどの負担軽減につながる。

東京五輪・パラリンピックは1年延期が決定したが、開催時には同社の顔認証システムが大会史上初めて本格運用される。

顔認証AIエンジン「NeoFace」を活用したシステムが43の競技会場、選手村、MPC(メインプレスセンター)、IBC(国際放送センター)に設置され、アスリートやボランティア、大会関係者30万人の本人確認を行う。

これはICチップを搭載したIDカードと、事前に登録した顔画像がシステムでひも付けられ、IDカードを機器にタッチした人の顔と登録されている顔を照合し、入場の可否を判定する。たとえIDカードを不正に入手しても入場は不可能となる。