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和歌山警協 地域の安全に貢献2017.12.1

法人化30周年で記念式典

和歌山県警備業協会(山﨑雅弘会長)は11月22日、「法人化30周年記念式典」を和歌山市内で開催した。

同協会は1972(昭和47)年9月に警備業者8社で発足、1988(昭和63)年3月に加盟社27社により社団法人として法人化した。2012(平成24)年4月からは一般社団法人となり現在に至る。現在は会員数55社、警備員数2000人超を擁する。その間、1997年に近畿地区警備業協会連合会での広域支援協定、1999年県知事・県警本部長と災害時における支援協定を締結、災害支援体制を確立した。協会が中心となり廃棄物不法投棄の監視業務、スクールガード業務などを行った。最近では、2015年の近畿高校総合体育大会、和歌山国体・障害者スポーツ大会などの警備業務に取り組んだ。

記念式典には、全国警備業協会・青山幸恭会長、近畿地区警備業協会連合会・若林清会長(大阪警協会長)をはじめ、仁坂吉伸和歌山県知事、宮沢忠孝和歌山県警察本部長などが出席し、30年の節目を祝福した。

特集ワイド 寄稿「自家警備」はチャンス2017.12.1

国土交通省が総務省と連名で自治体や建設業団体に出した通知に端を発した「自家警備問題」。警備員不足による公共工事への支障を背景に、都道府県ごとに「交通誘導員対策協議会」を置き、建設会社による交通誘導「自家警備」実施を求める内容だった。国交省から9月に“補足通知”が出たものの、警備業界にとって予断を許さない状況だ。前神奈川県警備業協会専務理事で本紙「紙面向上委員会」委員の早川正行氏に、従来と違う視点で寄稿してもらった。

警備員の賃金アップに

国土交通省が発した「交通誘導員の円滑な確保について」と題する通達が警備業界に波紋を広げた。公共工事における交通誘導員の慢性的な不足により、交通の安全確保のために、建設業者等に自家警備を促すもので、交通誘導という特殊な分野を「業」として発展させてきた警備業界はこぞって反発の声を上げたものだ。専門の訓練を受けていない交通誘導員で、建設現場における交通の安全を確保できるのかという、安全に係る重大な問題として議論を呼んだのである。

そこで私は、この真正面からの正論とは別に、警備員の賃金という視点で自家警備をとらえてみたい。賃金アップのチャンスとなるのではないか、あるいは国土交通省をはじめ建設会社が警備員の賃金アップの必要性を理解するのではないか。いささかの期待を込めて考える。

ダンピング合戦で被弊

平成20年、私が神奈川県警備業協会の専務理事に着任した頃、交通誘導警備業務はダンピングが横行し、その弊害に対し、警鐘を鳴らす業界関係者は多かった。

ダンピングは、年々ひどくなり、警備料金が警備員一人当たり1万円を割り込む事態にまで進んだ。その中から警備員の賃金を支払うと、警備会社が運転資金を無視して仕事を取っていることは明白であった。当時、社会保険未加入が常態の中で、会社の経営を考慮した通常の警備料金は1万4000円ぐらいと言われており、1万円を割り込む事態は異常なダンピング合戦というほかない。ダンピングを主導したのは、建設会社などユーザーである。建設会社に限らず、官公庁も「入札」という名のもとに官製ダンピングを仕掛け、警備料金は低く抑えることが当然の雰囲気が続いた。

立場の弱い警備会社は、仕事を欲しいためにダンピング合戦に参入し、必然的に、警備員の賃金は低下していった。こうして、モラルを失った経営者たちの存在がこの構図に拍車をかけた。ユーザーもまた「安さ」を求めてダンピングの構図を利用した。

その結果として、人手不足の影響をモロに受けて、警備員のなり手が減少していったのである。交通誘導警備業務の人手不足の遠因は、ダンピング合戦による警備会社の疲弊に求めることができる。もちろん、会社の健全な経営を無視してダンピング合戦に興じた警備会社の責任は更に重大である。

労務単価は最低ランク

このダンピングによる賃金は、そのまま国交省の公共工事設計労務単価に反映され、交通誘導警備員の賃金は“アリ地獄”の状態となった。

公共工事設計労務単価は毎年、国交省が10月に実施する「公共事業労務費調査」の結果をもとに決定する。この調査は昭和45年に始まり、実際に支払った賃金の調査を行う。

建設工事関連の多くの職種の中で、交通誘導警備員は比較的新しく、平成9年から設計労務単価の対象とされた。その後、平成19年からは、検定合格警備員の位置付けを明確にするため、交通誘導警備員A、交通誘導警備員Bに分類されて調査が行われた。

この設計労務単価に対して、警備業界から毎年のように指摘されるのは、交通誘導警備員A、Bともに最低にランクされることである。建設工事の「軽作業員」よりも賃金が低いのである。

軽作業員の業務は、軽易な清掃又は後片付け、軽易な散水などとされており、労務単価は、検定合格警備員である交通誘導警備員Aを上回っている。平成29年の東京都の場合、交通誘導警備員Aが1万3900円に対し、軽作業員1万4100円となっている。沖縄県はその差は更に広がり、交通誘導警備員A1万200円に対し、軽作業員1万3300円とその差は実に3100円である。

交通誘導に低い評価

公共工事設計労務単価調査のポイントは、警備会社が実際に支払った警備員の賃金を基準としており、一見、公平のようであるが、警備料金は毎年、この調査結果により設計されるため、一度確定した警備料金を超えることは困難となる。

また、公共工事に限らず、民間の工事にも利用されるため、タガをはめられた状態に陥る。ここに、交通誘導警備員が常に軽作業員の下に位置付けられるカラクリがあり、人手不足の原因ともなっている。

せめて、建設工事の「普通作業員」程度に労務単価を評価できないものか。国交省の普通作業員の定義は、普通の技能及び肉体条件を有し、人力による資材等の積み込み、運搬、片付け等とされている。平成29年の普通作業員は、東京都で1万9700円、沖縄県で1万7200円である。

このように交通誘導警備員の労働に対する評価は極めて低く抑えられており、職業として生活を支えることのできる賃金を目指す事が求められている。

単価調査、見直しを

長崎県は、交通誘導警備員のひっ迫を受けて、自家警備問題に積極的に取り組んでおり、建設会社の社員による交通誘導を可能とするため、研修の実施など条件を整理した。そして、自家警備員による交通誘導員の労務単価は「交通誘導員B」を採用することとした。(警備保障タイムズ10月11日号)

国交省の設計労務単価を尊重したのであろうが、はたして建設工事現場の中で、最低ランクの労務単価でやり手がいるのか疑問である。少なくとも、普通作業員程度の労務単価を支払わない限り、交通誘導員の引き受け手はいないのではないか。

場合によったら、建設会社は交通誘導を行う自社社員に福利厚生費などの名のもとで、賃金の上乗せを図るかもしれない。そこで建設会社は「交通誘導員B」の労務単価の実態を改めて認識し、安い賃金で工事費を設計してきたことに気付くであろう。

もともと、交通誘導警備員の賃金は、立場の弱い警備会社がユーザーとの正当な交渉を怠り、あるいはユーザーから言われるままに、低く抑えられてきたという側面を有する。国交省は、公共工事労務費調査に当たり、今後は「自家警備」の交通誘導員も調査し、設計労務単価に反映させてもらいたいものである。

さらに言わせてもらうなら、「自家警備」の通達を発した以上、交通誘導業務の重要性を踏まえ、公共工事設計労務単価の調査方法の見直しまで踏み込むことではないか。

「瓢箪から駒」で自家警備は、警備員の賃金アップのチャンスと捉えることである。