河内 孝の複眼時評
河内 孝 プロフィール |
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。 |
政権与党は何故、敗北するのか
ー民主主義は選挙を通じて自壊するー2025.02.01
民主主義と呼ばれる国家群で雪崩のような政権交代が起きている。
昨年11月、米大統領選挙でのトランプ勝利は、その象徴かもしれない。英国では7月の選挙で14年ぶりに労働党が政権を奪還した。同月、求心力低下に悩むマクロン仏大統領が下院を解散した。結果は完全な読み違いで与党連合が惨敗。以降、連立政権作りが難航、大統領は年末までに4人の首相の首をすげ替えるという混乱が続いている。
少数与党が提出する法案にルペン党首率いる極右「国民連合」、同じく議席を伸ばした左派政党のいずれかが反対に回り流産が続く。予算審議も棚上げ状態となっており任期2年半を残す大統領の退陣論すら出始めた。
隣国ドイツの事態も深刻だ。景気の停滞から政権党、SPD(社会民主党)の支持率が低下。連立政権から緑の党、自民党が離脱してショルツ首相は辞任を表明、2月下旬に総選挙が行われる。
従来なら最大野党、保守系のキリスト教民主同盟(CDU)に政権が回るところだが今回は風向きが異なる。移民反対を掲げ、不況がより深刻な旧東独地域で支持を広げる極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を急伸させている。イーロン・マスク氏などトランプ政権の重要閣僚が公然とAfD支持を表明しており問題を複雑にしている。
ウクライナの隣国で多数の避難民を受け入れてきたルーマニアにも激震が走っている。昨年11月の大統領選挙で全く無名の新人候補が突然、首位に躍り出た。この結果に憲法裁判所は12月、中国系アプリ(TikTok)を使った選挙運動が不正として無効と判定。やり直し選挙が行われることになったが、ロシアのサイバー攻撃によるものとの見方が流れている。
EU加盟国中、人口当たりの難民受け入れ数で最大のオーストリアでも昨年9月の議会選挙で移民制限を訴える極右の自由党が第1党となった。50年代に元ナチス党員らが作った政党だ。結果、中道派2党とリベラル政党による連合政権は崩壊し、ネハンマー首相は1月に辞任した。
1月7日にはカナダのトルドー首相も物価対策と移民問題をめぐる党内抗争から辞任に追い込まれた。このほか、イタリア、スペインではすでに極右派が政権党入りしている。無論、現職大統領の逮捕に至った韓国の異常事態は、言うまでもない。
不安あおり、支持集める
何故、政権党は負けるのか。各国、固有の事情もある。しかし、深層にある政治ダイナミズムは共通点が多い。
出口の見えないウクライナ戦争と、紛争やまぬ中近東、アフリカ。結果、鉱物資源、農産物、エネルギーコストは上がる一方でインフレが止まらない。生活は厳しくなる一方なのに「持てる人」はますます富み格差が広がる。しかし中流から下層に、下層から生活困窮層にすべり落ちる市民の不満と怒りは、上よりも下に向かう。
冷戦後、西側諸国は民主主義の勝利という(かりそめの)美酒に酔い、東ドイツや東欧、中近東からの安い労働力を積極的に受け入れた。ところが不況になると、3K労働を彼らに押し付けたことを忘れ、「移民、難民が元凶だ」と怒りを募らす。鬱積する不安と不満の中で問題を単純化して安直な“解決策”を示す急進勢力が登場する。彼らは「目に見える敵」を名指し、これを倒せば全ては解決すると予言する。「敵」は移民、難民問題や物価高を解決できない既成権力、すなわち政権だ。同時に権力を支える官僚制、一体と見られるマスコミも標的となる。こうして急進勢力は、雪だるまのような支持を背に選挙という民主主義プロセスを通じて民主主義システム自体をむしばんでゆく。
翻って日本はどうだろう。昨年の総選挙は、政権交代の一里塚かもしれない。7月の都議選、参院選挙で明らかになるが、まずは今年初の政令都市選挙、1月26日投開票された北九州市議選が先行指標となろう。