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クローズUP

世界警備市場の争奪戦2021.10.01

遠藤保雄の米国便り②

前号、米国生まれの警備会社で世界3位、北米では最大手の「アライド・ユニバーサル」が、欧州生まれで2大警備会社の一つ「ジーフォーエス」を買収、世界一の規模になったというニュースを紹介した。

この買収劇で、それまで世界のトップだった「セキュリタスAB」(本社・スウェーデン)は2位となった。今後の世界の警備市場は、新生アライド・ユニバーサル、それに次ぐセキュリタスABの巻き返しという2大警備企業のバトルが顕在化してくるのではないかと思われる。

とりわけ、巨大化したアライド・ユニバーサルの動向は注視しなければならない。これまで同社の警備業務は米国市場が主体で、カナダ、メキシコ、中南米の数か国などでも事業を展開してきた。それが今回のジーフォーエスの買収で、業務展開する警備市場は北米に加え、欧州、中東、アフリカ、南米にまで拡大したのだ。

買収したジーフォーエスについて触れておきたい。同社は1901年にデンマークで誕生。その後、英国の「セクリコル」(Securicor)という現金輸送主体の警備企業と合併してロンドンに本社を移し、欧州、中東、アフリカなどを主体に世界90か国以上で警備業務を展開するまでになっていた。その間、米国市場にも進出していた。

その結果、新生アライド・ユニバーサルの雇用する警備員数は米国における35万人を含め約75万人。総売上高は180億ドル(1ドル110円換算で1兆9800億円)。米国警備市場だけでも全体の40%を占める110億ドル(同1兆2100億円)に達すると見込まれている。

新たな戦略は規模と利益の活用

アライド・ユニバーサルは今後、新興国市場での経済成長やテロ・リスクの高まりなどで市場拡大が見込まれる世界市場に積極的に進出する体制を整備したといえよう。この動きに対抗、迎え撃つのが警備員36万人を有し、世界53か国で警備事業を展開するセキュリタスABということになるのだ。

今回の買収劇を踏まえ、国際的な警備企業の動向を追っているセキュリティ・プロッド社(Securityproad)の専門家は今後の世界の警備市場について、次のような興味ある見解を示している。3つほどを要約して記したい。

(1)国際警備市場は、アライド・ユニバーサルとセキュリタスABという両巨大企業により支配されていくと思われる。両社は規模の優位性により、国内および世界の市場でその強大な市場ポジション、膨大な利益を活用した市場戦略をとっていくだろう――。

(2)規模拡大の結果、他の警備企業よりも時間あたりの固定コストが大幅に低くなることから、より低い利益率での警備料金価格の設定を行い、市場シェアを一層拡大していくとなるのではないか――。

(3)その一方、欧米の警備市場は成熟期に入り、今後の飛躍的な伸びについては、期待できないのではないか。これから拡大が見込まれる地域はブラジル、インドなどの新興国やアジア太平洋諸国、さらには、中南米やアフリカ、中東地域などが市場争奪戦の舞台となるだろう――。

世界を見渡せば、スペインの「プロセガー」は警備員16万人、26か国で事業展開する。カナダの「ガラダ・ワールド」、アイルランドの「タイコ・インターナショナル」、インドの「SIS」などが続いている。大手警備会社による世界警備市場の争奪戦から目が離せない。

「警備員を守れ」会員の事故を整理・分析2021.10.01

埼玉警協 安全の小冊子

埼玉県警備業協会(炭谷勝会長)はこのほど、小冊子「警備員の労働災害防止のために」(A5判、20頁、カラー)を作成した。

同冊子は2020年度に会員事業場で発生した業務災害と通勤災害を整理・分析したもの。被災者の年齢や経験年数、種別、原因などについてグラフを用いて分かりやすく示すとともに、警備業務の特殊性、例えば「就業する現場・施設・設備に管理権限が及びにくい」などに起因する災害の特徴を明示。災害発生の多い施設・交通誘導の両警備業務や、高年齢者・経験年数の少ない人など「事業別・対象者別の労災防止対策」、転倒や交通事故、熱中症など「事故原因別の労災防止対策」についてもポイントを明記した。

新型コロナ対策では、感染拡大防止のための基本事項のチェックシートを掲載した。

埼玉警協は、同冊子を1000部印刷、加盟社に配布。新任・現任教育や安全衛生教育での活用を呼び掛けている。一部警察本部からも同冊子の引き合いがあったという。頒布価格は会員55円、会員外110円(いずれも税込み)。

警察庁新長官に中村氏2021.10.01

生安局長は緒方氏

警察庁の松本光弘長官が勇退し、9月22日付で同次長の中村格(なかむら・いたる)氏(58)が第29代の警察庁長官に就任した。

中村氏は1986年に東京大学法学部を卒業し、同年4月に警察庁に入庁。

1989年和歌山県警本部捜査第二課長、97年在タイ日本国大使館一等書記官などを経て2015年警視庁刑事部長、16年警察庁組織犯罪対策部長、18年警察庁長官官房長などを歴任。20年1月から警察庁次長。

生活安全局では小田部耕治局長が辞職、緒方禎己(おがた・よしみ)氏(58)が新局長に就任した。

緒方氏は1987年東京大学法学部を卒業し、同年4月に警察庁入庁。

2018年内閣官房審議官(小型無人機等対策室)、19年警視庁警務部長などを経て、20年警視庁副総監。

特集ワイド 東京2020警備の遺産2021.10.01

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体(警備JV)は、大会組織委員会から委託された警備業務をほぼ完了した。47都道府県から553社、延べ60万人の警備員を動員した日本の警備業にとって最大規模の警備業務だった。今後の警備業のレガシー(遺産)となるものは何か、「人」と「機器・システム」の両面から検証した。

警備JVが大会組織委員会から委託を受けた警備業務は、2020年2月の物品・機器などの搬入作業(バンプイン)警備に始まった。10月初旬の搬出作業(バンプアウト)警備終了で大会警備を完遂する。

東京2020のオフィシャルパートナーであるセコム(東京都渋谷区、尾関一郎社長)とALSOK(同港区、青山幸恭社長)は2018年、大会組織委員会からの発注を受け、競技会場で業務を行う警備員の業務を各競技会場の警備指揮所(VSCC)で管理するためのシステムを両社それぞれ開発した。このシステムは大会期間中に活用され、効率的な警備業務を行うことができた。

しかし両社は「大会中に使用した管理システムは、これまでの警備でも活用したもので新しいものではない。警備業界にとって初めての試みとなった『大会最大のレガシー』は、警備会社がオールジャパンのJVを組み同じ目的に向かって力を合わせた経験と実績」という見解で一致している。

ロンドン大会、リオデジャネイロ大会と警備員の確保に失敗し3連敗が許されない状況の中、警備JVは組織委員会の支援も受けながら目指す人数の警備員を集めきった。コロナ禍で大会中止も叫ばれ直前に無観客が決まるなど状況が目まぐるしく変わる状況下で、日頃はライバルである警備会社同士が一丸となって準備を進め、成功体験を共有するという警備業にとって貴重なモデルケースとなった。

警備員を成長させた目に見えないレガシーもある。セコムは東京2020に向けて、警備JVを統括する「東京2020推進本部」、警備の配置・訓練を行う「警備本部」と、社内に2つの部門を立ち上げた。「大会組織委員会や警察、消防など他の業界の人と共に汗を流し、大規模な警備に関わったことは貴重な経験になった」と話す。

ALSOKは、東京2020警備に従事するリーダー(警備責任者)を5年間で500人育成する取り組みを行った。特にパラリンピックに向けては、障害者への対応について資料を作成し研修を重ねた。「大会が無観客となり、選手・関係者に向けての対応となったが今後の警備で活きるレガシーになった」と振り返る。

スマホで指示・報告

大会組織委員会からの依頼を受けてセコムとALSOKがそれぞれ用意したシステムは同様の機能で、専用アプリを携帯するスマートフォンにインストールして使用する。異常発生時に警備指揮所からGPSで現場に最も近い警備員を特定し、文字情報で急行を指示。対応後に警備員は文字情報や画像で警備指揮所に報告する。そのやり取りは他の警備員もスマホで共有できる。システムは競技会場で業務を行う2社以外の警備員にも提供された。

セコムが開発したシステムは「警備指揮システム」という名称で、16年から東京マラソンや箱根駅伝などの警備で使用したシステムを活かした。警備責任を担う13会場をはじめとする24会場で、約400台のスマホで使用した。同システムは今後、大規模イベントなどの警備業務で積極的に使われる。

ALSOKが開発したシステムは「警備員管理システム」と呼ばれ、約400台のスマホで使用。同社が東京2020警備に向けて開発した「スタッフ等連携システム」を元に機能を絞り込んだものだ。「スタッフ等連携システム」は19年のラグビーW杯で活用され、機能は実証済みだった。簡単な操作で緊急通報ができ、チャットによるコミュニケーションや自動的に現場近隣の警備員に直行指示ができ、ビーコン(位置を知らせる無線標識)を併用すれば室内でも位置を測位できる。自社の大規模警備に活用するだけでなく、商品として他の警備会社にも販売している。

システム以外に大会期間中活用された機器として「セコム気球」がある。気球は「釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ」「お台場海浜公園」、聖火台が設置された「オリンピックプロムナード」の3会場の上空に係留させ、気球下に設置した高精細パンチルトズームカメラで上空からの警戒・監視を行った。