クローズUP
「警備業全国安全衛生大会」を開催2024.07.21
労災ゼロへ
全国警備業協会(村井豪会長)は7月3日、東京都内で「警備業全国安全衛生大会」を開いた。労働災害防止の優秀作品の表彰を行い、「労働災害による犠牲者を一人も出さない」とする大会宣言を採択した。
同大会は今年で26回目。全国安全週間(7月1〜7日)に合わせて開いた。全警協労務委員会の委員や都道府県協会の専務理事らが出席した。
警備業では昨年、労災による死者数が前年比10人増の35人、休業4日以上の死傷者数が同248人増の2178人。いずれも過去10年で最多となった。今年の労災による死者数は同日現在で2人。
大会では冒頭、警備業で昨年と今年に労災で亡くなった人や能登半島地震の犠牲者の冥福を祈り、黙とうをささげた。
あいさつで村井会長は「従来までの労災事故防止対策に加え、より効果的な方策を模索していく」と述べた。全警協では今年度、作成した受傷事故防止対策マニュアルの普及啓発セミナーを必要に応じ、都道府県協会単位で開く。
労災防止作品3部門(論文、ポスター、標語)の入選者は次の通り(各部門1〜3位、敬称略)。
【論文】(1)加藤暢之(東京、SGS)(2)中村良成(愛知、アイシン・コラボ)(3)夏山大輔(長崎、ALSOK長崎)
【ポスター】(1)大谷博之(福岡、にしけい)(2)内山紗良(新潟、リリーフセキュリティ)(3)川口友未(東京、凸版警備保障)
【標語】(1)三浦章宏(島根、ALSOK山陰)(2)立川哲(福島、エス・ジー・プロ)(3)佐藤直孝(東京、セントラル警備保障)
大会宣言(要旨)
警備業界における労働災害は、いまだに多発している。昨年は、休業4日以上の死傷災害が過去最多を記録、極めて憂慮すべき状況にある。また、メンタルヘルスを含めた労働者の健康管理は大きな課題となっている。
安全衛生に関する諸課題を克服していくためには、第一線の現場で日夜たゆまぬ努力を続けている警備員の安全確保と良好な職場環境を高い次元で整備していくことが何よりも肝要。DXに代表されるイノベーションをハード、ソフト両面で活用するなど、経営トップ自らが率先して努力を重ねなければならない。
エッセンシャルワーカーとして、顧客の安全・安心、社会公共の安全・安心に寄与していることを自覚し、労働災害による犠牲者を一人も出さないという新たな決意をもって、明るい職場づくりに邁進することを誓う。
特集ワイド 他業界の人材確保2024.07.21
少子高齢化に人口減少が進む中、人材確保に苦しんでいるのは警備業界に限らない。他業界の採用活動の中には警備会社に応用できる取り組みもあるのではないか――。東京の中小建設会社とその業界団体、ビルメンテナンス業界、トラック運送業界を中心に人材確保に関する取り組みを探った。
建設業
近年の建設業界では、大卒を中心に新卒採用してきた大手企業が、高校や専門学校にまで対象を拡大。中小の建設業者にとっては人材確保が一層難しくなってきた。
都内に拠点を置き、資本金3億円以下または常勤従業員数300人以下の中小建設業者167社で構成する東京都中小建設業協会(都中建、渡邊裕之会長)の会員企業では、人材不足が年々深刻化。2022年11月から24年3月にかけて都中建は、都と東京しごと財団による業界別人材確保支援事業「オーダーメイド支援」に取り組んだ。会員11社が参加し支援を受けた。
正和興業
正和興業(星徹代表取締役)は、ハローワークや複数の求人広告を用いてきたが、採用人数の減少、入社から離職までの期間が短縮傾向にあるという課題に直面していた。
星貴士副社長は「4人採用した年に3人が入社1か月以内で離職したことに危機感を抱き、この事業に参加しコンサルティングを受けることにしました」と振り返る。同社の課題は採用方法の改善と、定着に向けた施策を始めることだ。「求職者の人物像を年代別にイメージし、求人原稿を書き分けました。例えば、20代向けには“社内教育が充実している”ことや入社後の“成長モデル”を具体的に説明し、40代向けには“定年まで長く働ける”“寮がある”といった条件を伝えました」(星副社長)。
求人原稿は星副社長と採用担当者の2人が手分けして作成し求人情報サイトに掲載した。当初は自ら効果測定を行っていたが、分析が難しく専門業者に委託することにした。劇的に応募が増えることはないがどんなフレーズがあると閲覧や応募が増えるのかといった傾向が見えつつあるという。
採用後の定着を図るために導入した「ブラザー・シスター制度」は一般企業のメンター制度に相当する取り組みだ。職場内訓練(OJT)担当と、悩み相談などに応じるメンター担当を兼務する。社内各部門に1人ずつ配置し、事務部門では定着率が上昇しているという。現場部門でははっきりと効果が表れるまでOJTの方法を新入社員の特性に合わせながらアレンジするなど改善を図っている。「人数が限られているためOJTもメンターも兼ねているという面もありますが、信頼して任せられる人材が担当しています」(星副社長)。
同社は現在、資材置き場を改修し機械操作などを練習する実習施設の整備を進めるなど教育環境の充実も図っている。
徳力建設工業
都中建は中小建設業に就職した場合の年収モデルやキャリアプランを紹介するYouTube動画を作成しホームページなどで発信している。この動画がきっかけで業界への転職につながったケースがある。コロナ禍が猛威を振るっていた20年、IT企業から45歳の男性が、道路舗装などを手掛ける徳力建設工業(鳥越雅人代表取締役)への転職を決意した。
鳥越代表取締役によると、都中建の合同説明会に来場した男性は偶然、都中建のYouTube動画を視聴し建設の仕事に興味を持ったという。面接で業界や仕事の内容などを説明し、本人の意欲を確認し採用した。この男性は今年、2級土木施工管理技士の学科試験に合格。講習や検定の費用は会社が負担した。現在、安全・品質・工程・原価を統括管理する「現場代理人」を担当するなど着々と仕事の幅を広げている。
鳥越代表取締役は「どんなきっかけで来た人材が定着するのかまで読み切れません。どれか一つに限定することなく、さまざまな採用手法を駆使して幅広く人材を確保していきたいです」と話している。
ビルメン業
会員513社で構成する東京ビルメンテナンス協会(佐々木浩二会長)は、ビルメン業に特化した求人サイト「東京ビルメンお仕事探し」を運営するほか、初心者向け講習を開き、技能向上を支援している。
同協会・高橋誠専務理事によると、同サイトには会員は毎月3件まで無料で求人情報を登録できる。外部の求人検索エンジンで上位表示される機能を備える。「年間求人数がそれほど多くない」「ウェブサイトを作る予算確保が難しい」という会員会社から重宝されているほか、東京以外の関東近郊のビルメン協会に加盟する企業や清掃用洗剤などを扱う賛助会員企業も有料で利用している。
同サイトを利用するメリットには「Indeedなどの求人検索エンジンから応募される方が多くなった」「約半数が清掃経験者の応募で、改めて説明しなくても分かってもらえる」との声が寄せられている。
利用企業数は2021年4月の8社から約200社に拡大し、月間PV(閲覧数)も1万以上で推移。応募件数は当初、月50件に満たなかったが、最近は月100件前後で推移している。
さらに、協会は同サイトを利用するものの、なかなか採用に結び付かない企業を対象に、「採用支援セミナー」を開き、採用活動のヒントなどを提供する。
初心者向け講習は警備・防災などのほか、24年度から設備点検・報告書作成などの講習も開講した。会員以外の企業の従業員も受講できるが、受講料は会員価格より割高な設定だ。
運送業
今年4月に適用された時間外労働の上限規制に伴う「物流の2024年問題」が影を落とすトラック運送業界は、人材確保が急務だ。東京都内のトラック運送事業者約3200社で構成する東京都トラック協会(水野功会長)は、行政や全国トラック協会(坂本克己会長)と連携し、若者と女性の採用を促進している。
このうち女性運転手10人が勤める従業員164人の事業所は都の「女性の活躍推進助成金」事業を活用し「流し台」を改修し女性用トイレを新設。このうち100万円の助成を受けた。
東ト協会員は高校などと連携し、インターンシップ(就業体験)を通して仕事への理解促進や就業意欲の向上を図る。東ト協は都道府県協会別で最多の47社が取り組んでいる。全ト協は1人3日以上の就業体験を実施した事業所の費用の一部を補助している。
ハローワークと合同セミナー
警備業における人材確保は会社規模に関わらず苦戦が続く。大手警備会社は今春、採用目標数を充足できない会社が相次いだ。
地方の警備会社は都道府県警備業協会がハローワークや自治体と連携し、人材確保に取り組んでいる。求人情報の発信手段はハローワークをはじめ、民間の求人情報誌や求人サイトやチラシのほか、ウェブ広告、自社のホームページやブログ、SNSがよく使われる。
情報の更新頻度が低いと他新着情報に埋もれて求職者の目に触れにくくなるため頻繁に更新しなければならない。民間の求人サイトは更新するたびに費用が掛かるなど、作業と費用の負担が採用結果に見合うのか悩ましいところだ。
こうした背景からハローワークと警協が合同で開催するセミナーに参加する警備会社は少なくない。警協による警備業の魅力を伝えるセミナーと各社の説明会や面接会という構成が定着している。