警備保障タイムズ下層イメージ画像

クローズUP

紙面向上委員会 第19回2020.05.21

第19回「紙面向上委員会」は、特別編として委員5人に「コロナ禍への対応」について寄稿してもらった。感染拡大により警備業の経営や雇用が受ける影響、今後のために必要な認識と取り組みなどが示された。

田中敏也氏(リライアンス・セキュリティー)は、企業に重要なのは目先の利益追求ではなく、感染予防の徹底や一時金の支給など「社員の命と健康を重視する経営感覚だ」と強調した。

實川利光氏(アルク)は、感染防止に関連した臨時警備が生じていることに言及。東京五輪延期には“準備期間が増えた”と前向きに捉えるべきだとした。

早川正行氏(シンコーハイウェイサービス)は、リーマン・ショック時と同様の低価格競争に懸念を示し、企業を消耗させる“値引き”に警鐘を鳴らした。

齋藤文夫氏(前全国警備業協会)は、警備員の休業補償を行い年次有給休暇の取得を推進する事例を挙げ、前向きな取り組みが企業の未来を変えていくチャンスだと訴えた。

鈴木伸也氏(日本海警備保障)は、コロナ禍に直面した社会の動向から経営者が学ぶべき事柄は多いと指摘した。

「総会」始まる2020.05.21

都道府県警備業協会の「定時総会」が始まった。新型コロナウイルス感染症まん延により、規模縮小や意見交換会中止など例年とは様変わりした。2020年度の各協会の舵取りを見る。

鹿児島警協

プロの使命感を

出席者は過去最小の32人、多数の空気清浄機と3人掛けの机に1人ずつ――。万全の感染防止対策を施しての総会となった。

上拾石秀一会長(ガードシステム鹿児島)は「国体の開催を控えて会員一同が一丸となって取り組んでいるところに新型コロナウイルス感染症が広がった」と、不透明な先行きに懸念を示した。一方で、「こんな時期だからこそ県民の警備業への期待はますます高まってくることは間違いない。厳しい経営環境・労働環境だが、“警備のプロ”としての誇りと使命感をもって業務にあたっていただきたい」と出席者を鼓舞した。

役員改選では、上拾石会長の続投が決定した。また、副会長には松下健一氏(東洋警備)に代わり理事で青年部会長を務める仙田匡拡氏(シティ警備保障)が選任された。

副会長の他の新役員は次の通り(敬称略)。【理事】野上博道(セコム鹿児島統轄支社)

新潟警協

総力で乗り越える

野澤慎吾会長(セコム上信越)は警備業界の現状として「慢性的な警備員不足、働き方改革への新たな取り組みに加え、新型コロナによるイベントの中止など極めて厳しい状況にある」と指摘した。

「世界的な脅威となっているウイルスと戦う年度初めとなり、全国的には終息の兆しが見えないが、新潟県内では関係機関と医療機関の努力、県民の理解と協力などによって感染拡大は抑えられている。こうした危機を、警備業の総力を結集して乗り越え、1日も早く終息を迎えるよう祈念しながら業界発展を目指す時である」として、諸課題の克服に向けた取り組みの推進を呼び掛けた。

事業報告などの議案は全て承認された。会員有志が子供や高齢者の安全確保のためにステッカーを貼った社用車を活用する「ながら見守り活動」を昨年に続いて行う。

長野警協

災害支援の体制確立

竹花長雅会長(長野県パトロール)は「コロナ禍による厳しい局面が続いているが、このような情勢だからこそ協会が一致団結して難局を乗り越えてピンチをチャンスに変えよう。そのために先頭に立ち適正な協会運営に努める」と述べた。

今年度の事業計画では、昨年の台風19号大規模災害での県との支援協定による出動実績に基づき、災害発生時に迅速に対応できる体制の構築と各地区との連携強化を促進。県だけではなく各自治体からの要請に応えることができるように、各地区で部隊員出動体制の確立を目指す。

警備業の経営基盤強化も引き続きの課題だ。適正な警備料金を確保するため悪質なダンピング業者の排除や適正な積算方法の普及を図り、行政による調査に対する的確な労務単価の報告に努めたいとしている。

特集ワイド 鉄道テロ対策強化2020.05.21

鉄道各社は列車内や駅の警備を強化している。テロの標的になる恐れがある東京五輪・パラリンピック競技大会を見据え、最新技術を活用した新たな手法で鉄道の安心・安全の確保に努める。新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京五輪・パラリンピックは1年延期となったが、鉄道各社は今春から警備体制の整備や監視機器の設置を始めている。

「東京五輪」控え

鉄道の安全対策強化は、2005年のロンドン地下鉄同時爆破テロを受けて、国土交通省と主要鉄道事業者が「鉄道テロ対策連絡会議」を同年に設置しテロ対策についての意見交換を行ってきた。具体的な対策が本格化したのは、18年に東海道新幹線の車両内で殺傷事件が発生してからだ。JR各社は世界の注目を集めテロの標的となることが懸念される東京五輪・パラリンピックを見据え、新幹線車内の警備体制強化を始めた。

警備の核となるのは最新技術を用いた、これまでにはなかった遠隔地からの車内や駅などの監視だ。インターネット回線を利用して映像を送信できるカメラを利用した人の目による監視や、AIを使った異常の自動検知などを行う。

東海道新幹線を運行するJR東海は今年3月、走行する列車から離れた場所にある管理本部に待機している指令員が車内の状況を把握して車内放送を可能とする機能を整備した。列車内で非常ボタンが押されると指令所のモニターに防犯カメラの画像が自動的に表示される。画像を確認した司令員はその列車の乗客に車内放送で情報を知らせるとともに乗務員には対応を促す。

新幹線全駅の防犯カメラと管理センターをネットワーク化し、画像監視を集約することで駅員の目の届かない範囲も一元的に監視できる体制も構築しており、5月中の稼働開始を目指す。管理センターではJR職員と警備員が24時間体制でモニターを監視する。リアルタイムで駅防犯カメラの画像から状況を把握することにより、非常時に迅速な対応ができるようになる。今年度中を目標に非常時に警察へ駅防犯カメラの画像を伝送できるようにする。

JR東日本は主要110駅や変電所、車両基地などの重要施設の防犯カメラ2万台のうち5000台をネットワーク化し、今春から本格的に24時間集中監視を始めた。これまで駅の防犯カメラ監視は各駅で駅員が通常業務と並行して行っていたため、常時監視することは不可能だった。

監視業務はセントラル警備保障(CSP・東京都新宿区、澤本尚志社長)が行っている。CSPの画像センターで人の目によるリアルタイム監視に加え、一部のカメラに搭載したAI解析技術を用いた通報システムを活用する。従来の防犯カメラは事案が起きたあとに画像を確認していたが、画像センターではカメラとコンピューターが一体化したIPカメラを用いることで、ライブ映像をAIが監視する。

AI解析技術は不審物の置き去りや不審者の侵入などの行為を自動で検知。通報を受けた画像センターの担当者が映像を確認後、パトロール員が現場へ駆け付けて対処する。

東急電鉄(東京都渋谷区、渡邊功社長)は今年7月までに保有する電車全1255両に“4Gデータ通信対応”のLED蛍光灯一体型の防犯カメラを導入する。今年の3月から設置を進めている。車両に同種防犯カメラを導入するのは、鉄道業界では初の試みだ。

カメラは1車両につき4台設置する。映像データを4G通信で送信して、離れた場所から確認できる。映像をリアルタイムで確認できるようになることで、車両内トラブル発生時における素早い対応が可能となる。これまで車内に設置したカメラの映像を確認する時は、カメラから記録媒体を抜き取って事務所で閲覧しなければならなかった。

将来的にはカメラに多様なセンサーを搭載して、人工知能と組み合わせることで不審物の自動検出などもできるようにする。

全列車に警備員防具等の搭載も

JRは最新技術を使った警備以外も強化している。JR東海は2019年5月から警備員を新幹線の全列車に同乗させている。警備員が車両内を巡回することで凶行を思いとどまらせる「見せる防犯」を狙うとともに、非常時に乗客を素早く避難させる。JR東日本と西日本は警備員が乗車する新幹線の本数を増やしている。

各新幹線の車両では車内で凶器を用いた犯罪が行われた場合に備え、防護盾や刺股などの防具や三角巾などの医療用品を搭載している。