クローズUP
見積書に「法定福利費」明示を2016.8.1
国交省 社保ガイドライン改訂
国土交通省は7月28日、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を改訂、同日付けで施行した。
建設業法第20条第1項では、「建設業者は工事請負契約を締結する際、経費の内訳を明らかにして見積もりを行うよう努めなければならない」とされている。同条項を踏まえ、(1)元請企業は法定福利費相当額を内訳明示した見積書を提出するよう下請負人に働きかける(2)下請企業は法定福利費を適正に見積もり、標準見積書の活用などで法定福利費を内訳明示した見積書を注文者に提出する――を明確化した。これにより今後、元請企業(建設会社)は下請企業(警備会社)に法定福利費相当額を内訳明示した見積書の提出を求め、警備会社も同見積書を建設会社に提出しなければならない。
また、同ガイドラインでは「平成29年度以降、社保加入が確認できない人は、元請企業は“特段の理由”がない限り建設現場入場を認めないようにする」と明記。この特段の理由について同省は、(1)現場入場時点で60歳以上であり、厚生年金保険に未加入の場合。ただし、雇用保険未加入の場合は、60歳以上でも現場入場は不可(2)伝統建築の修理など特殊技能を持つ(3)社保加入の手続き中で、今後確実に加入することが見込まれる――に限定。これに該当しない人は、現場への入場を認めない。一部で言われてきた「社保は関係ない。警備員がいなければ工事はできない」は原則として通用しなくなる。
同ガイドラインは、社保加入について元請企業と下請企業が負うべき役割と責任を明確にし、社保加入の取り組みの指針として平成24年に制定。今回の改訂は、同省の示した加入目標まで残り1年を切ったことから、加入徹底を一層強化するために行われた。
社保問題で検討会議開く2016.8.1
埼玉警協、会員2社が取り組み事例を報告
埼玉県警備業協会(山崎守会長)は7月23日、同協会内で「社会保険未加入問題検討会議」を開催した。来年3月末に迫った国土交通省が示した社保加入期限、今年3月の全国警備業協会通達(社保加入率を踏まえた(1)加盟員の入会基準の見直し(2)役員就任規定の見直し(3)目標未達成加盟員に対する指導措置)への対応など、社保加入促進へ向けた指摘が相次いだ。
社保加入促進へ向けて会員の自由闊達な意見交換を行う趣旨から、敢えて「研修会」の名称を使わずに「検討会議」とした。
約90人が参加した会議は、(1)日本年金機構担当者による講話(2)社保加入を進めた会員による実例報告(3)社会保険労務士と公認会計士による専門的助言(4)29年春に向けた埼玉警協としての対応――という盛沢山かつ中身の濃いプログラムが用意された。
開会に当たり山崎会長は、全警協通達を読み上げたうえで「29年3月末時点の社保未加入業者は、事業主として義務違反であり違法企業となる。厳しい問題だが、警備業の未来の発展のためにも全会員が問題をクリアしてほしい」と、一層の協力を求めた。
日本年金機構川越年金事務所の清野拓也・適用調査課長は「厚生年金保険・健康保険制度について」と題して講演。清野課長は、年金と健保の制度や保険料などについて説明。加入促進を呼び掛けた。
会員による実例報告は、テイシン警備の和田章会長とケイビー・コムの井出雅博社長が担当した。
和田会長は「社保加入率4割だった2年前に年金事務所の立入検査を受け、過去2年間に遡って多額の保険料の支払いを求められた」と、自身の経験を報告。その上で、「今後、社保は避けては通れない。今の人手不足は給与の低さが原因。社保加入は最大のピンチだが、国が社保加入のために設計労務単価を引き上げているのは最大のチャンス。根気強く顧客と交渉することが必要」と、社保加入のための顧客との料金交渉の重要性を指摘した。
短期間で社保加入率0%から80%を実現した井出社長は「国が労務単価を上げたのは社保加入のため。“会社に儲けろ”ではない。警備員の待遇改善のためのお金だ」と述べ、社保加入を待遇改善と人手不足対策のチャンスとして捉えるべきだと訴えた。
専門家の視点からアドバイスしたのは社会保険労務士の資格を持ち警備会社キステムに勤務する高木雄太氏と同協会部外理事の公認会計士の長内温子氏。
高木氏は10月からスタートする短時間労働者に対する社保適用拡大について説明した。長内氏は「年金事務所の指導は年々厳しくなっている。立入検査は拒否できず、強制的に加入手続きが行われる。加入が遅れると多額の納付金を求められ、会社倒産もあり得る。また、悪質(故意)な加入逃れの場合は詐欺罪も適用される」と述べ、早急な加入を求めた。
29年春へ向けた対応では、再度全会員に社保加入状況についてのアンケート調査を行うとともに、協会への入会基準については、現在も行っている加入の際の社保加入状況の確認を、より子細に行う。役員については、裏付けのある具体的な書面を確認書として提出を求める――などの案が事務局から示された。
同協会では、会議を今後も開催し、会員の社保加入促進へ向けた取り組みを支援していく。