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社保、人手不足に対応 各地の総会で決意2016.6.21
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特集ワイド 安全に働ける警備業界へ2016.6.21
労災防止対策の推進を
全産業で労働災害が減少する中、警備業では死傷災害、死亡災害ともに増加傾向にある。7月1日からスタートする「全国安全週間」を前に、厚生労働省労働基準局安全衛生部の野澤英児・安全課長に、交通労働災害など警備業で多く発生している労働災害の防止対策について寄稿してもらった。
今年も「全国安全週間」が7月1日~7日、「見えますか? あなたのまわりの 見えない危険 みんなで見つける 安全管理」をスローガンに実施されます。各職場で、スローガンの掲示をはじめ、職場巡視や安全大会・講習会の開催など様々な啓発活動が行われ、これを契機に一層の安全対策の推進が期待されます。
警備業の皆様も、これから述べる労働災害の発生状況等に留意され、安全対策の充実・向上を図っていただくことをお願いします。
警備業での労災発生状況
労働災害による休業4日以上の死傷者数は、全産業においては長期的に減少傾向にあるのに対し、警備業における死傷者数は増加傾向にあります。平成27年の警備業の死傷者数は1401人で、対前年比1.1%増加しています。全産業では、2.7%の減少であった中で増加したことはたいへん残念な結果です。
死傷災害を事故の型別に分析すると、最も多いのが「転倒」で約34%、次いで「交通事故(道路)」約17%、「墜落・転落」約12%、「動作の反動・無理な動作」約12%となっています。このうち、「交通事故(道路)」が対前年比約7%増加したことが、警備業での労働災害が増加した大きな要因となっています。
平成27年の死亡者数は29人で、対前年比13人、81.3%の大幅な増加となっています。この29人の事故の型別の内訳は、「交通事故(道路)」が12人、「高温・低温物との接触」7人(いずれも熱中症)、「墜落・転落」5人となっています。特に熱中症については、平成26人が0人であったものが急激に増加しています。さらに、今年の死亡災害の発生状況ですが、5月末現在の速報値では、すでに昨年同期比2倍になる10人(「交通事故」5人、「激突され」3人、「はさまれ・巻き込まれ」、「墜落・転落」各1人)となっています。平成27年に大幅に増加しましたが、今年はさらにそれを大きく上回る件数の死亡災害が発生しており、非常に危惧される状況となっています。
また、年齢別の被災状況では、全体の3分の2近くを50歳以上の労働者が占めているという特徴があります。 こうした労働災害の状況を踏まえ、次の事項を重点とした労働災害防止対策の強化が必要です。
交通労働災害対
策警備業の交通労働災害としては、交通誘導警備と輸送警備での交通事故対策が重要です。
交通誘導警備では、不特定の第三者の運転する車両を対象とするため、警備員の意志が運転者に伝わりにくいなどの問題点があり、わかりやすく確実に合図を伝えること、安全に配慮した適切な誘導位置の確保、適切な装備品、保安用資機材の装着・使用など、基本的な安全確保の徹底が必要です。
現金輸送車などの輸送警備では、「交通労働災害防止のためのガイドライン」などに沿って、適正な走行計画の作成、運転者に対する教育の実施、交通安全情報マップの作成や交通KYT(危険予知訓練)による危険感受性の向上、雪や大雨などにおける安全の確保などの取り組みが重要です。
転倒災害の防止対策
転倒災害は、全産業で最も多い災害の種類ですが、警備業では、暗い夜間での警備や緊急時の駆けつけ、積雪のある屋外での警備など他の業種ではあまりない課題もあります。また、警備場所の管理権限が及びにくいこともあり、警備場所のオーナー等の理解、協力を得ながら転倒の原因の除去、改善を図るとともに、警備員に対するKYTなどを通じた注意力の向上など、転倒防止対策の一層の推進が望まれます。
厚生労働省では、昨年より「STOP!転倒災害プロジェクト」を展開し、事業場での転倒災害防止の取り組みの促進を図っていますので、各社の皆様も、厚生労働省HPの「職場のあんぜんサイト」も参考に、引き続きの取り組みをお願いします。
熱中症対策
警備業では屋外で行う作業も多く、夏場は熱中症のリスクが非常に高い業種となっていますが、前述したように、熱中症による死亡災害の多発が重大な問題となっています。
厚生労働省では基本的な熱中症対策として通達「職場における熱中症の予防について」(平成21年基発第0619001号)を発出しています。そこでは、WBGT値(暑さ指数)の活用をはじめとした熱中症を予防するための作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育を総合的に行うことや、万一、熱中症になった場合の適切な応急処置が記載されています。
また、平成28年の職場における熱中症予防対策については、「平成28年における熱中症対策の重点事項について」(平成28年基発0229第1号)により、平成27年に死傷災害が多く発生している建設業と屋外で作業する警備業を重点業種として、これらの業種における熱中症予防対策の実施にあたって留意すべき事項を示しました。そして、これを業界団体のご協力を得て会員事業者の皆様方への周知を行うとともに、対策に当たってのポイントとなる事項をリーフレットにとりまとめ、労働局・労働基準監督署を通じて周知啓発を行っています。
本年は夏の気温が例年より高くなると予想されており、暑さが本格化する7・8月に向けて、今一度、これらの通達等に基づく熱中症対策の重点的な実施をお願いします。
高年齢労働者への配慮を
人は一般に加齢とともに、筋力、視力・聴力、バランス感覚、記憶力・判断力などが低下していきます。それに伴い、若年の頃と比べ、転倒などの労働災害を受傷しやすくなります。特に、警備業では高年齢労働者の割合が高いことから、高年齢労働者でも安全で快適に働ける職場づくりに努めていくことが重要です。
例えば床面の凸凹を視認しやすいようにする、表示の字を見やすい大きさ・色にする、適切な照度を確保する、取り扱う重量物の重さを制限する、作業時間を見直すなどがあります。注意喚起だけで終わることなく、高年齢労働者の心身機能の変化を踏まえた職場環境の改善を図っていくことが必要です。
リスクアセスメント
最近の労働災害の発生状況から特に考慮いただきたい対策について述べてきましたが、警備業における労働災害のリスクは、これらに限られたものではありません。
作業現場にある危険有害性を特定し、それらによる労働災害の重篤度(けがなどの程度)とその災害が発生する可能性を組合せてリスクを見積もり、そのリスクの程度に基づいて対策の優先度を決めた上で、リスクの除去、低減措置を検討し、その結果を記録する一連の安全管理手法として「リスクアセスメント」があります。
厚生労働省ではこの手法に基づいた潜在的な危険有害性を未然に除去・低減させる先取り型の安全管理の導入の促進を図っています。警備業の各事業場におかれても、この手法を取り入れることにより、警備業務の中に潜む災害リスクの除去、低減を図られることをぜひ実施していただきたいと思います。
労働災害の減少は一朝一夕には成しえない課題ではありますが、上述したような対策をこつこつと着実に実践していくことが重要だと考えています。警備業の職場が、安全に安心して働ける職場となり、労働災害の減少が図られることを心から期待いたします。