警備保障タイムズ下層イメージ画像

クローズUP

「無観客」会場 異例の警備2021.07.21

開幕直前「東京2020」

コロナ禍で1年延期となった東京五輪が7月23日に開幕する。東京は4度目の「緊急事態宣言」、隣接する3県は延長された「まん延防止等重点措置」により、大半の会場が「無観客」という異例の開催となる。五輪史上初の民間警備会社による“オールジャパン”の共同企業体(JV)が担う警備は、大きな変更を余儀なくされる。

1964年に続く2度目の東京五輪が、1年の延期を経て7月23日開幕する。一方で、全42会場中34会場がある東京・千葉・埼玉・神奈川1都3県の「無観客」での開催が8日、都内で開かれた政府・都・大会組織委員会・国際オリンピック委員会・国際パラリンピック委員会の「5者会議」で決定した。

同日、政府が7月11日までの予定で「まん延防止等重点措置」を適用していた東京に4度目の緊急事態宣言を、千葉・埼玉・神奈川に適用していた重点措置の延長を、それぞれ決めたのを受けた。期間はともに8月22日まで。

これにより五輪史上初の民間警備会社の共同企業体(大会警備JV)による大会警備は、各会場で実施予定だったスクリーニング(手荷物検査など)の規模縮小や、会場最寄り駅から会場までの「ラストマイル」警備の中止など体制や計画の変更を余儀なくされる。

一方、1都3県以外で競技会場のある北海道(マラソン、競歩、サッカー)、宮城(サッカー)、福島(野球、ソフトボール)、茨城(サッカー)、静岡(自転車各種)については、宮城と福島、静岡が収容人員の50%または1万人の少ない方、茨城は学校連携のみなど、いずれも当初を大きく下回る観客受け入れを予定(北海道は調整中)。これら地域でも警備体制の見直しは不可避となっている。

聖火、東京に到着

東京五輪の聖火が7月9日、開催都市の東京都に入った。3月に福島「Jヴィレッジ」(楢葉町・広野町)をスタート後、新型コロナ感染拡大により公道でのリレーの多くは中止。東京でも聖火をトーチでつなぐ「点火セレモニー」となった。

町田市内のイベント会場で行われた同セレモニーには、第一走者の元プロテニス選手の松岡修造さんや同日に走る予定だった世田谷区と町田市などのランナー約100人が参加した。

イベント会場は無観客で、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体(JV)が警備を担当。警備員は警察官や運営スタッフと緊密に連携し、関係車両や関係者の誘導、立哨や巡回を行って安全を守った。

都内では島しょ部を除いて公道走行を取りやめ、各日のリレー終着点の会場でセレモニーのみを行う。受け継がれた聖火は、7月23日に新国立競技場で行われる開会式で聖火台に点火される。

組織委、JV 決起集会開く

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(橋本聖子会長)は7月12日、都内で「東京2020大会警備決起集会」を開いた。組織委の米村敏朗チーフ・セキュリティ・オフィサー(CSO)、大会警備共同企業体(警備JV)の中山泰男(セコム会長)・青山幸恭(ALSOK社長)両共同代表などが出席し、士気を高めた。

警備JV加盟社から31人が参加し、23日から始まる東京2020の本番警備成功に向け、改めて結束を強化した。

米村CSOは「警備JVは大きな挑戦だったが、ここまで来ることができた。多くの会場が無観客となったが、総力を結集し完遂しなければならない」と決意を示した。

中山共同代表は「警備JVという新しい形で大会を成功させる強い思いにあふれている。空前絶後の警備員を集める未経験の事業を行えたのは、まさにワンチームとしての活動の成果だ」と述べた。警備JVの意義にも触れ、「日本の警備業にとっても社会に対する恩返しとなる。安心・安全な大会実現のため全力を尽くす」ことを誓った。

青山共同代表は「リスクを想定しながら警備計画やマニュアルを策定しなければならなかったが、ようやく今に至った。コロナ禍の状況であるが、史上最大のオリンピック・パラリンピック警備となる」と意気込みを示し、「観客の有無を問わず多くのリスクがある。緊張感を持って臨まないといけない。最も重要なのは日本の警備を世界に発信すること。日本の心意気を世界に示す」と期待を述べた。

組織委の岩下剛警備局長は各会場のべニュー・マネジメント・カンパニー(VMC/会場管理会社)を発表した。同局長は「ロンドン大会で民間警備が失敗したため、組織委は早々に警備局を発足し警備JVとともに体制を整えてきた。予想よりも多くの警備員が必要となったが、組織委と警備JVが連携して募集に取り組んだことは、東京2020のレガシー(遺産)になる。準備してきた成果を発揮し未来の警備のあり方を示す機会にしたい」と決意表明した。

特集ワイド 本番へ東京2020警備2021.07.21

東京2020の警備体制が決まった。新型コロナウイルス感染拡大で東京都に緊急事態宣言が発出され大半の競技会場は無観客となったが、東京2020組織委員会は警備体制を原則崩さず大会に臨む。組織委警備局の岩下剛局長、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体(警備JV)の杉本陽一事務局長と村井豪幹事長に警備概要を聞いた。

JV責任者が決意示す

ワンチームで臨む 杉本陽一事務局長

「必ず成功させる」という強い意志のもと、ワンチームで警備に臨みたいと思います。これほど大規模な警備JVによる警備は日本では初のケースです。警備JV延べ56万人の警備員が、同じ制服を着て同じ活動をすることも初めてです。多くの課題が出てきますが的確に対応し、世界から称賛される大会にしたいと思います。

状況の変化に即応 村井豪幹事長

大会期間中も状況は刻々と変化すると予想していますが、臨機応変に対応していくことが大会警備における課題だと捉えています。コロナ禍のなか、アスリートが我々に与えてくれる感動も必要です。そのお手伝いができることは非常に光栄です。大会を成功に導けるようしっかり警備の役割を果たします。

警備員60万人

準備期間を含めた大会警備に従事する警備員の延べ人数は60万1200人、大会期間中警備員が最多となるのは7月27日(31会場)の1万8100人。オリンピック期間中は延べ27万2500人、パラリンピック期間中は11万2900人が大会警備にあたる。

首都圏会場の警備を担当する警備JVの警備員は、全体の9割以上にあたる54万6600人。オリンピック期間は23万9900人、パラリンピック期間は11万600人を動員する。地方会場の警備は、非JV枠でセコムとALSOKが担当する。

体制変更は小幅に

ほとんどの競技会場が無観客となったが、警備局は警備体制の変更をできるだけ小幅にとどめたい考え。大会は目前に迫っており、警備の事前準備なども考えると警備員の大幅な配置転換は不可能という事情もある。

オリンピックは無観客だが、パラリンピックは東京都の緊急事態宣言解除後に行われる予定で今のところ有観客が想定されるため、単純な警備員数の削減や設備撤去が難しいという側面がある。

人数調整でなく一人当たりの勤務時間短縮で対応するやり方もあるが、宿泊所・待機所から会場までの(シャトルバスなどを使った)警備員の移動、食事の手配など課題も多い。

顔認証装置300台

関係者の手荷物検査などを行うスクリーニングエリア(PSA)は450レーン、車両検査場(VSA)は130レーン、セキュリティーカメラは8000台(うちセンサー式2500台)、顔認証装置は300台を設置。スクリーニング資機材関係では、X線検査装置1000台、門型金属探知機1770台、ハンディ金属探知機2040台、車両下部検査装置100台を用意した。

競技会場は全てフェンスで囲い、センサーや監視カメラを随所に配置。人と車両それぞれにゲートを設け、金属探知機などを用いてセキュリティーを確保する。一部の警備員はウェアラブル(身体装着型)カメラを装備。監視カメラの映像とともに情報は会場に設置した会場警備本部(VSCC)に集積され、どこで発報があっても瞬時に場所を特定し対応できる。

練習場にも配置

4月24日のオリンピックスタジアムに始まって、各競技会場でバンプイン(運営に必要な機器の搬入)の警備を開始した。7月3日には選手村のセキュリティスィープ(安全点検)が行われ、開村まで封鎖された。各競技会場も順次封鎖され、開幕に向けて準備していく。

競技会場に加え練習場などのオリンピック・パラリンピック関連施設にも警備員を配置し、スクリーニング、車両出入管理、交通誘導、巡回、監視業務を行う。首都圏各競技会場には会場管理会社(VMC)を置き、会場全体の警備を統率する。

コロナ・熱中症対策

コロナ感染防止については、アスリートや関係者と近い距離で対応することを考慮し、マスク着用や手指消毒など基本対策に加え、PSA検査トレイや機器を抗ウイルス加工とし定期的に除菌する。PSAで業務を行う警備員は抗ウイルス加工の手袋を着用する。アスリートや関係者と接触頻度の高いポストに配置予定の警備員は、任意でワクチン接種を実施している。

熱中症対策については、高機能素材を利用した統一制服の着用、警備員個人に対しペットボトルホルダー配布、状況に応じて冷風機やパラソルを設置、各諸室に冷却材常備、塩タブレットの配布などを行う。