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クローズUP

「最賃」議論スタート2024.07.11

引き上げ額が焦点

最低賃金の「改定目安額」の議論が6月25日に始まった。中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が議論を重ね、7月下旬にも引き上げ額の目安を示す。物価高を上回る賃上げの実現を政府が目指す中、引き上げ額が焦点となる。

最低賃金は2023年度の改定で全国加重平均額が1004円となり、1千円を初めて超えた。23年度の引き上げ額は過去最大となる43円(4.5%)だった。

武見敬三厚労相は6月25日の中央審議会で、春闘での賃上げが高水準になったことに触れ、「賃上げの流れを非正規雇用労働者、中小企業に波及させていくには最低賃金の底上げが必要。国民は期待感を持って、(議論の行方に)注目している」と述べた。諮問に当たり、政府が同21日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024改訂版」と「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太方針)」を踏まえた審議を求めた。

改定に当たっては全国を経済情勢に応じて3ランク(A=6都府県、B=28道府県、C=13県)に分け、目安を提示。それを参考に、都道府県単位の地方審議会が議論し、都道府県ごとの改定額が決まる。新たな最低賃金は10月から適用される。

23年度改定では24県で目安を上回り、都道府県別の引き上げ額は39〜47円となった。現在の最低賃金の最高は東京の1113円、最低は岩手の893円。地域間格差は年々縮まる。

政府は30年代半ばまでに1500円とする目標を掲げている。

セコム 香川県警と包括協定2024.07.11

セコム四国本部は、香川県警察と「『地域の安全安心』に関する包括連携協定」を6月13日に締結した。

自治体と警備会社による包括連携協定や、警察と警備会社による防犯・防災協定などの先例はあるが、分野を特定しない包括的な協定を警察と警備会社が結んだのは全国初とみられる。

包括連携協定は、個別の事業に限らず多岐にわたる分野での連携を継続的に推進するものだ。今回の締結により、認知症高齢者の捜索サポート、通学路での見守り活動、防犯セミナーでの連携などが検討されているという。

同県警は2020年以降に香川大学や損害保険・生命保険5社と、地域の安全安心に向けて同協定を結んできた。今回、セコムから県警に「警備業務で培ったノウハウを地域住民のために活かしたい」と相談、協定締結につながった。

県警本部内で行われた締結式で、岡本慎一郎県警本部長と、山本哲也セコム四国本部長が協定書を交わした。

山本四国本部長の話 セコムは「安全・安心・快適・便利」な社会を実現する「社会システム産業」構築をめざし取り組んでいます。香川県警の「県民の期待と信頼に応える力強い警察」という運営方針に深く共感し、盤石な協力体制を築いてまいりたい。

特集ワイド 警備業の価格転嫁2024.07.11

「リーフレット」活用しよう

警備業界は人手不足を克服するために適正価格を確保し、それを原資として警備員の給料を上げ職場環境の改善を図ることが必要だ。全国警備業協会(村井豪会長)は今年2月、警備業者が発注者と価格交渉を行う際の“武器”として「警備業における適切な価格転嫁の実現に向けて」と題したリーフレットを作製した。活用するためのポイント、作製の経緯などを紹介する。

リーフレットは、業界団体として会員各社の価格転嫁の取り組みを支援する内容となっている。構成は(1)直近5年間のコスト上昇率(2)発注者へのメッセージ(3)警備業者へのメッセージ(4)不適正な取引事例――の4パートに分かれている。

「直近5年間のコスト上昇率」は、2019年から23年までに上昇した警備業に関連するコスト(最低賃金、交通誘導警備員・施設警備員の労務単価、ガソリン代、電気代、貨物輸送費、職業紹介サービス費)の上昇率を記載している。労務費や原材料費、光熱費の上昇分は適切に価格に反映させる必要があり、交渉の根拠として活用できる。

「発注者へのメッセージ」は内閣官房と公正取引委員会が策定し2023年11月に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」についてわかりやすく解説。指針が発注者に求めている行動を箇条書きで説明している。全警協は業界団体の立場から、警備業者を対象に価格転嫁・賃上げの達成度に関するフォローアップ調査を定期的に行っており、その結果は関係機関と共有している。

「警備業者へのメッセージ」は、23年11月の政府の指針を受けて警備業者が取り組むべきポイントを記している。積極的に価格交渉に臨み、適正価格を確保して従業員の賃上げを着実に実現するよう求めている。

「不適切な取引事例」は、独占禁止法や下請法に違反する発注者の不適切な対応について具体例8ケースを紹介。発注者にそれらの対応が見受けられた場合は情報提供を要望、通報先となる公正取引委員会や中小企業庁の「情報提供フォーム」のURL・QRコードを掲載している。

リーフレットは3つ折りにすると縦29.5センチ×横14センチのハンディーサイズになり交渉現場に持参しやすい。全警協の公式サイト(https://www.ajssa.or.jp)からダウンロードして印刷できる。

全警協・中山泰男前会長は6月5日の定時総会で全警協の取り組みを次のように報告した。

「23年11月の『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』で、警備業は労務比率が62.7%と価格転嫁が最も必要な業種の一つとして示された。全警協はこれを機に業界全体で労務費の価格転嫁に取り組むことを決めた。警備業者が発注者との交渉で使用できる“武器”が必要との考えから、新たにリーフレットを作ることとなり、自主行動計画作業部会が協議して完成させた」と述べた。

全警協は4月上旬、中小企業庁と意見交換の場を持ち、リーフレットは中小企業庁から高い評価を得た。特に(1)受注者・発注者の両方にメッセージを送っている(2)着実に賃上げが行われているかフォローアップ調査で確認することを示してある――などが評価された。

4月下旬には内閣府・経済産業省が開く「賃金と物価の好循環に向けた懇談」に警備業を代表して中小規模の警備会社2社が出席し現状報告を行った。同会議は政府が6月に定める「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針)」に向け議論するもの。2社の報告は次の内容だった。

(1)施設警備業務では入札物件で最低制限価格制度が設けられてない物件でダンピング競争が起こっている(2)交通誘導警備業務では地方の建設土木業者が元請けの建設業者から価格転嫁を受けてないため警備業者の価格転嫁を認めていない(3)社会に必要不可欠なエッセンシャルワーカーである警備業が衰退することがないよう支援をお願いしたい――の3点。

こうした経緯を経て、6月21日に公表された「骨太の方針」では、「賃上げの推進」の項目に初めて警備業に関する事項が盛り込まれた。全警協は今後、「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」の改訂を行い、適正価格引き上げの取り組みを推進するとしている。

沖縄警協 価格交渉セミナー開く

沖縄県警備業協会(池田典夫会長)は昨秋、那覇市内で「価格交渉能力向上セミナー」を開き、会員各社から経営者・営業責任者など約80人が参加した。講師は全警協の警備業務適正化小委員会の松尾浩三氏(岡山警協会長)が務めた。内容は(1)労務費調査への適切な対応(2)国が示す積算基準書の概要(3)自主行動計画の実践の重要性――など。

同警協はセミナー後、受講者を対象にアンケート調査を実施し、課題や感想を聞いた。多くの受講者が人手不足を最大の課題としており「セミナーに参加してよかった」との思いが多くを占めた。

受講した中小規模の警備会社は、意を決して約15年ぶりに発注先と価格交渉を行った。見積りの積算根拠や賃上げによる価格転嫁の必要性を丁寧に説明したところ、発注者の理解を得ることができ状況が好転しつつある。

近畿警備保障 A4資料も使用

全警協・自主行動計画作業部会員としてリーフレット製作に関わった松尾浩三氏(全警協理事・岡山警協会長)は、近畿警備保障代表取締役社長として自社の適正料金引き上げの陣頭指揮もとる。リーフレットの活用方法について次のように述べた。

「当社は物価上昇に見合う従業員の賃上げを行いました。その上で給与体系を発注側に伝え、リーフレットの内容を説明し価格転嫁の必要性を訴えました。リーフレットには業界団体の全警協と業界を所管する警察庁が連名で明記され説得力があります」。

「全警協のサイトからはリーフレットの内容項目ごとにA4サイズで印刷することができます。警備業者によっては『発注者の皆様へ』の項目のみを印刷し、資料として使用している事例もあると聞いています」という。