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特集ワイド 労災防止と警備業2022.06.21

転倒災害が大幅に増加するなど労働災害が後を絶たない警備業では、その撲滅は業界全体の悲願だ。7月1日からスタートする今年の全国安全週間のスローガンは「安全は 急がず 焦らず 怠らず」。厚生労働省労働基準局安全課の釜石英雄課長に警備業における労働災害の防止対策について寄稿してもらった。

2021年に警備業で発生した労働災害による死亡と休業4日以上を合わせた死傷者数は2059人で、20年と比べ267人(約15%)増となりました。

死傷災害の事故の型別では、「転倒」が最も多く805人(全体に占める割合は約39%、前年比16%増)、次いで「交通事故(道路)」282人(同約14%、17%増)、「動作の反動・無理な動作」240人(同約12%、22%増)、「墜落・転落」224人(同約12%、1.8%減)。これら4つの災害で全体の4分の3を占め、特に転倒と動作の反動・無理な動作(そのほとんどが腰痛)を合わせると前年比約17%増の5割以上となります。

21年の死亡者数は前年同数の28人です。事故の型別では、「交通事故(道路)」14人(全体の50%、前年比1人減)、「はさまれ・巻き込まれ」4人(同約14%、1人増)、「激突され」3人(同約11%、同数)――などとなっています。

22年(5月現在の速報値)は死亡者数5人(うち「墜落・転落」3人)で、前年同期比1人の増加。休業4日以上の死傷者数546人で、同46人(約9%)の増加です。

警備業の年齢別被災状況は、60歳以上の労働者の占める割合が約49%と、全産業平均の約28%に比べると相当高い水準にあります。50歳以上にまで対象を広げると約70%となります。

人は一般に、加齢とともに身体能力(特に足の筋力、視力、聴力、記憶力、判断力)や感覚機能(バランス感覚)が変化、転倒や墜落・転落などをしやすくなります。転倒、腰痛、墜落・転落が死傷災害の約6割を占めていることは、身体能力、感覚機能の変化の影響が大きいものと考えられます。

高年齢労働者が安全で快適に働けるよう、事業者は安全衛生管理体制に高齢者労働災害防止対策を組み込み、職場環境を改善することが必要です。また、高年齢労働者の健康や体力を把握し、それに対応していくことも重要です。

厚生労働省は20年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を策定、普及を図っていますが、中小企業事業者に対する補助事業(エイジフレンドリー補助金、日本労働安全衛生コンサルタント会が補助事業者となり実施)もあります。警備業の各事業場でも同補助金などを活用して高年齢労働者が安心して安全に働ける職場づくりに取り組んでください。

●交通誘導警備

道路工事などでの交通誘導警備では、車両誘導中の転倒、熱中症、交通事故が多くなっています。

交通事故については、誘導の際に不特定の第三者が運転する車両を誘導するために警備員の意思が運転者に伝わりにくく、運転者が警備員を十分視認できない場合もあると考えられます。相手に分かりやすい合図をして確実に意思を伝える、安全に配慮した適切な誘導位置に立つ、夜間でも運転者が視認しやすい衣服などの着用と適切な装備品の装着、保安用機材の使用――などの対策が必要です。

●運搬警備

現金輸送車などの運搬警備(貴重品運搬警備)では、運転時の交通事故による労働災害が多いことから、厚労省が18年6月に改正した「交通労働災害防止のためのガイドライン」などに基づき、(1)適正な走行計画の策定(2)乗務前の点呼などによる運転者の状況の確認(3)運転者に対する教育の実施(4)「交通安全情報マップ」による運転者の注意喚起(5)異常気象の際の安全確保――に取り組んでください。

●環境改善と安全衛生教育

転倒災害の主な原因には、濡れた滑りやすい床での「滑り」、床の段差や置いてある物への「つまずき」、階段などでの「踏み外し」があります。警備業では、夜間での警備、降雨・積雪のある屋外での警備などもあり、警備場所の環境改善が難しい場合もありますが、転倒の原因を除去し、作業環境の改善を図ることが重要です。また、警備員への安全衛生教育で意識を向上させることや、警備員の高齢化が進む中にあっても、平素から体力の向上に取り組むことで転倒しにくく、転倒しても大きなけがに至らないようにすることも欠かせません。

●WBGT値測定

21年の警備業での熱中症での死傷者数は前年よりは減少しましたが、依然として70人近くの死傷者が発生しています。

警備業の作業現場では(1)黒球付測定器によるWBGT値(暑さ指数)の測定と適切な作業計画の策定(2)屋外での作業の場合は、冷房や屋根付きの休憩用設備の整備(3)健康診断結果や点呼等を活用した当日の健康状態の把握(4)熱中症の早期発見と緊急時の対応(事前に確認し、発生した場合には救急車の要請など適切に対応)(5)新型コロナウイルス感染症対策のためのマスクの着用の考え方の周知――などの取り組みが必要です。

厚労省では「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しており、7月が重点取り組み期間ですので、この機会に熱中症対策を再確認してください。

●腰痛

警備業での腰痛は、長時間立ったままでの交通誘導警備、運搬警備の際の荷の運搬など、さまざまな要因により発生していると考えられます。(1)体に合った靴、伸縮性のある作業服の着用(2)重量物の正しい姿勢での取り扱い(3)適宜休憩して姿勢を変える(4)普段からストレッチをして筋肉を柔軟にしておくとともに、腹筋、背筋など腰部を支える筋肉を補強する――などの対策を講ずることが重要です。13年6月改正の「職場における腰痛予防対策指針」を参考にした取り組みをお願いします。

転倒や腰痛といった作業行動に起因する労働災害が増加しています。これらの災害は事業者の講ずる対策だけでは防ぐことが困難です。事業者と労働者の双方が労働災害防止のための基本ルールを徹底するとともに、それらを遵守・実行できる時間的・人員的余裕のある業務体制を構築することが重要です。このため22年度の全国安全週間のスローガンは「安全は 急がず 焦らず 怠らず」としました。すでに準備期間が始まっていますが、このスローガンの下、各々の事業場への安全衛生担当者の配置とその職務の徹底、各組織における安全管理活動の活性化、そしてトップから現場に至るまで一体となった安全衛生対策を推進してください。