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「警備ビッグ5」で買収劇2021.09.21

遠藤保雄の米国便り①

日本の警備市場は2000年代に入り、売上高が3兆円の大台に乗った。その後も増加傾向を辿ってきたが、近年は3.5兆円台で推移している。一見、壁に直面しているようにも思える状況だ。では、世界と米国の警備市場はどうなのか。

世界の警備市場の動向を見ると、今後も年率4%程度の成長が見込めると予想されている(米国警備業白書2020版)。けん引役となっているのが、世界的規模で民間警備業務を担う大手警備企業5社だ。

スウェーデンに本社を置く「セキュリタスAB」、英国に本社を置く「ジーフォーエス(G4S)」、米国警備企業である「アライド・ユニバーサル(AlliedUniversal)」、スペインの警備企業「プロセガー(PROSEEGUR)」、カナダをベースに北米主体に警備業を展開する「ガラダ・ワールド(GARADAWorld)」である。これら5社で、20兆円近いとも言われる世界警備市場の2割のシェアを占めている。

なかでも注目は、北欧で創業し、長年に渡って警備業務を展開、西欧、アフリカ、中東に次ぎ、米国にも進出を果たした世界トップ企業のセキュリタスAB、それと肩を並べ世界90か国以上で53万人の警備員を雇用し警備業務を展開するジーフォーエスの動向である。

国際的には両社を軸に、世界規模で警備業務の拡充・拡大が続くと、多くの警備関係者は予想してきた。

ところが、今年の5月3日、世界の警備業界に激震に似た衝撃が伝わった。

最大手2社のうち、ロンドン五輪の警備で失態が世界に喧伝されたジーフォーエスが世界第3位の米国警備企業アライド・ユニバーサルに買収されることが発表されたのだ。

投資ファンド参入 M&A吹き荒れる

この買収劇の特徴は、アライド・ユニバーサルが世界大手5番目のガラダ・ワールドとの買収合戦を展開し、競り勝っての買収だったことである。この買収競争に参入した両社ともに、経営面で投資ファンドをバックに持つ警備企業であったことは特に注目すべき点だ。これら2社は過去20年間、北米市場で業績を拡大してきたが、見逃せないのは両社が同業他社を数多く買収して警備市場のシェアを拡大してきたということである。

とくに、今回の買収劇が進行した背景には、コロナ禍が全世界に広がり一般ビジネス活動にも影響が出る中、警備事業を世界展開するジーフォーエスがその事業展開面でマイナスの影響を受け株価が下落したことである。これにより一気に企業買収の動きを招来し、「小」が「大」をのみ込む事態を生んだ。

コロナ禍の下での経済対策として世界的に大幅な金融緩和が進む中、この豊富な資金供給を活用しての投資ファンド主導での警備企業の国際的な再編という構図が浮かび上がる。

世界大手の警備業務は、(1)人的施設警備(2)各種施設等の機械警備(3)現金輸送警備(4)更に重要性を増す情報警備――を主体に展開されている。

再編整備された警備企業は規模の利益を生かし、今後も世界市場での事業拡大を狙っているのは当然だ。戦略のベースにあるのは、世界の各地で培ったさまざまな警備ノウハウであることは言うまでもない。

「3.5兆円の壁」にぶつかる日本の警備市場。これを世界の大手警備企業がどう見ているのか。我が国警備業界は、「井の中の蛙」であってはならないのではないか。

本稿の執筆者である遠藤保雄氏は、仙台大学教授時代の10年間、日本の大学では初めて教育課程に「警備業」を取り入れ講義を行ったことで知られる。昨年7月には、全国警備業協会の基本問題諮問委員会(成長戦略を検討する会)の初会合で「警備業60年の軌跡を踏まえ成長を考える」と題した講演を行った。

3年間務めた学長を退任した現在は、4月に続いて2度目となる米国ワシントン州シアトル市に滞在。米国や世界の警備業の動向をテーマに研究生活の日々を送っている。今回、「警備業・米国便り」(4回連載)を寄稿してもらった。

〝不当しわ寄せ〟防ぐ2021.09.21

公取委、中小の「最賃」アップ支援

公正取引委員会は9月8日、10月の最低賃金引き上げを前に「中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を策定した。最賃引き上げなどに伴い、買いたたきや減額、支払い遅延など中小事業者への“不当なしわ寄せ”を防ぐ。

同アクションプランは(1)下請法などの執行強化(2)相談対応の強化(3)不当なしわ寄せ防止に向けた普及啓発活動の拡充・強化――の3本柱から構成。

下請法執行強化では、下請事業者対象の定期調査で、最賃引き上げを含む労務費や原材料価格上昇の影響に関する質問を追加するなど下請法違反に関する情報収集の取り組みを強化する。公取委が親事業者に対して違反行為の改善を求める指導を行う際に交付する「注意喚起文書」には、最賃引き上げを含む労務費や原材料価格の上昇に関連する注意事項を加え、不当なしわ寄せを行わないよう強く要請する。

相談対応の強化では、ブロックごとに置かれている公取委の事務所・支所などに「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」を設置、全国の中小企業などからの相談にフリーダイヤルで対応する。

10月に全国で順次発効する2021年度の最賃額は、前年度比28円増が40都道府県、7県はこれを上回った(表参照)。いずれも過去最高の上げ幅だが、コロナ禍で業況が厳しい中小企業には大きな負担となっている。

特集ワイド 非常時の「事業継続」2021.09.21

地震や台風、新型コロナウイルス感染拡大など、企業はさまざまなリスクに囲まれている。非常事態に直面した時、企業が生き残るための戦略が「事業継続計画」(BCP)だ。社会に不可欠な警備業は、災害時の業務の復旧に向けてBCPを策定し訓練を行うなど、対応力の強化が求められる。事業継続のポイントと企業の取り組みを取材した。

事業継続計画(BCP)の起源は、1980年代に米国での災害復旧計画の策定や、西暦2000年にコンピューターの誤作動が世界で懸念された「2000年問題」への対応などの諸説がある。

国内では電力、通信、金融などの業種に導入されていたが、2011年の東日本大震災をはじめ自然災害の頻発を受けて、緊急時の事業継続への取り組みが広がった。

岩手県内のある警備会社は、東日本大震災で被災した一週間後にBCPを急きょ策定した。社員が死亡・行方不明となり社屋が被害を受けた状況にあって、社員の生活確保と併行して経営維持への対応策を取りまとめ、業務復旧に取り組んだ。

近年は首都直下地震や南海トラフ地震への備え、豪雨被害への対策が叫ばれる。こうした中、中小企業庁の2021年版「小規模企業白書」によると、20年5月時点でBCPを策定または策定中の企業は、大企業では4割を超えたが、中小企業では2割強にとどまった。

中小企業が策定しない理由は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が多数を占めた。一方、策定した企業は、その効果について「従業員のリスクに対する意識が向上した」「業務の改善・効率化につながった」などの回答を寄せた。

企業に起こる非常事態は、災害や感染症の拡大にとどまらず火災や大事故、テロ、サイバー攻撃、内部情報の漏えいなど多岐にわたる。

企業の防災や危機管理のコンサルティング業務を行う「Facility Management(ファシリティマネジメント)防災Lab(ラボ)」の代表・上倉秀之氏に、警備業の事業継続について説明してもらった。上倉氏は元セノン取締役常務執行役員で、全国警備業協会認定のセキュリティ・コンサルタントの資格を持つ。

「警備会社のBCPは、自社の業務の特性に合わせることが重要であり、100社100様の計画となります」と上倉氏は話す。策定するポイントとして(1)資金確保(2)人材育成(3)情報管理――の3点を挙げた。

資金確保について、事業継続の根幹となるのは財務体質の強化であり「緊急事態の発生から数か月の支出に充てる現金の保有が必要になる」と指摘した。

人材育成に関しては警備員の通勤方法や現場の特性を把握し、災害時の業務への影響を予測して対策を立てることや、非常時を想定した各種訓練を通じて警備員の育成、レベルアップを図る取り組みは欠かせない。

情報管理では、会社の営業情報や会計、警備員の教育記録などはバックアップを取り、会社とは別の場所でも保管する必要がある。

「BCPは非常時のものではなく、平素から取り組むことで自社の対応力がより高まるのです」と上倉氏は強調した。

例えば、顧客が施設警備員の削減を求めてきた場合、警備会社はリスク分析や類似施設での事故事例など“現場の知見”を武器として、警備員の必要性を顧客に説明し理解を深めてもらうことも大切になる。「警備会社の営業担当者はセキュリティ・プランナーの資格を取得して、より高度な安全対策を顧客に提案するなど、警備会社が持つノウハウを経営資源として活用すべきと考えます」と述べた。