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特集ワイド 警備業「変革のとき」2021.06.21

 全国警備業協会(中山泰男会長)は、6月9日の総会で基本問題諮問委員会(成長戦略を検討する委員会)の報告書「アクションプラン(案)」を明らかにした。山積する課題解決へ向け、警備業の未来を見据えた同プランへの期待は大きい。5つの作業部会が提言する今後の取り組みとは――。

「今こそ変革のときである。Now or never(ナウ・オア・ネバー)=今やらなければ永遠にできない。今こそ絶好の好機!の想いで警備業がチャンスをつかんで進みたい」――。「アクションプラン(案)」の“前書き”に中山会長が記した一文だ。この言葉にプラン策定に携わった中山会長以下委員全ての思いが集約されている。

全警協は今後、アクションプランをたたき台に、各種委員会や理事会、都道府県協会などの意見を聴き、プランに示された各施策の速やかな実施を目指す。警備業の未来はこの実践に託されているといっても過言ではない。

外国人雇用 「特定技能」活用を

「外国人雇用」作業部会(折田康徳部会長)は、警備業の人手不足を外国人雇用によって解消する方策を検討した。

現行の警備業法は、外国人を警備員として雇用することを禁じていない。しかし、外国人を長期にわたり雇用するには「永住者」や「日本人の配偶者」などの在留資格に限定される。そこで着目したのが出入国管理法の改正により2019年に制度化された新たな在留資格「特定技能」制度だ。

同制度は、一定水準の技能や日本語能力を持つ外国人を、国が認めた人材不足が深刻な産業分野「特定産業分野」で受け入れていくもの。

作業部会では、空港保安警備に限定した特定技能参入を検討した。理由として同部会は「顧客に外国人雇用への理解がある」「日常的にグループで業務を行い、外国人への支援が行いやすい」などを挙げている。

加えて今後、日本語能力の高い「日本語学校」に通う留学生の警備業界への受け入れ促進も検討する。具体的には、留学生をアルバイト警備員として雇用し、学校やアルバイト企業の協力を得て留学生を特定技能の外国人雇用につなげる。

空港保安警備の特定技能指定後は、施設警備や交通誘導警備など他の種別についても特定技能の活用を検討する。

しかし、警備業が特定技能制度を活用していくためには「特定産業分野」に指定されることが必要。そのためには制度設計をはじめ、日本語能力と技能の水準を評価する試験を行う「試験実施機関」の指定、制度の適切な運用を図るために、指定された業種ごとに所管省庁が設置する「特定技能協議会」――などが必要となる。さらに、外国人を雇用する際には警備業法上の「警備員の欠格事由」の確認など現行法上の課題もある。部会では、これら課題に対して警察庁と綿密な連携を取りながらさらなる検討を行っていく。

警備業法見直し 「ガイドライン」策定

「成長戦略に資する警備業法見直し」作業部会(首藤洋一部会長)は、生産性向上のために警備業界の手続きの改善について検討した。同検討結果の一部は、今年1月に「行政のデジタル化に関する警備業界の要望」として警察庁に提出。政府の進める「行政のデジタル化」と相まって一部書類の署名・押印の省略化や電子メールでの申請・届出につながった。

一方で、近年の警備業法改正(2002年、04年)は、法改正の必要性や正当性を裏付ける「立法事実」が相当程度認められた場合のみに実現。要望書だけでは法改正が実現しない可能性がある。

そこで、警備業界の総合的な自主ルールを「(仮)警備業ガイドライン」として策定・運用することを提言した。現行法には規定のない全警協独自の取り組みを業界挙げて進めることで、関係する法令改正のための立法事実を積み上げていく。

ガイドラインのイメージとして同部会は、公正取引や労務などに関する取り組み、災害時の警備員の安全確保(安全ガイドライン)――などを示した。

経営基盤強化 「倫理要綱」改訂も

「経営基盤強化・単価引き上げ策」作業部会(佐々木誠部会長)は、「経営者の意識改革」に着目、経営基盤強化に関する現状と課題について議論した。メンバーからは「経営者のモラル向上が課題」「ダンピング業者の存在が料金の上がらない原因の一つ」など意見が寄せられた。

同部会は、全警協の「倫理要綱」が策定から約5年経過していることから、必要があれば改訂することを提言している。

経営者の意識改革のための「経営者研修会」については、全警協が主導した研修会を全国で統一して実施できるような資料を作成、均一的な経営者ができるような仕組みの必要性を指摘した。

今後の取り組みとして、「警備業者間の適正な価格競争による業界発展にもつながる」と、自治体などが警備業者を選定する際に活用できるような「全国統一的な何らかの基準づくり」も提案。さらに「マル適マーク」や「経営事項審査」の導入など企業の評価制度構築にも言及した。

災害時の役割明確化 各警協が指定公共機関に

「災害時の警備業の役割明確化」作業部会(松尾浩三部会長)は、災害対策基本法における「指定公共機関」への全警協の指定や現行の災害支援協定の課題などについて検討した。

災害対策基本法第50条第2項に基づき、指定公共機関や指定地方公共機関には、災害応急対策の実施が求められている。全警協が指定公共機関となった場合、実質的な災害応急対策は加盟社が実施することとなる。このため、都道府県警協が先行して指定地方公共機関の指定を受けた後に全警協が指定公共機関に指定されることが「最善の策」と結論付けた。

今後の取り組みでは、「警備業法見直し」作業部会と「(仮)警備業ガイドライン」に盛り込む「安全ガイドライン」について協議する。

災害支援協定については、見本となる「協定書」「覚書」「災害時警備実施要領」を作成、協定の“有償化”に道筋をつけた。

ICT・テクノロジー DX社会へ対応進める

「ICT・テクノロジー活用」作業部会(豊島貴子部会長)は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)社会」に対応できる業界へ成長するための議論を行った。

全警協には現在活用している一方通行のみの情報伝達システム「掲示板システム」の見直しも含めたデジタル化を要望。都道府県警備業協会には「DX社会への対応は待ったなし」と、「加盟社の実情を考慮するばかりでは、かえって企業価値を毀損し、業界への信頼も失う」との強い姿勢で取り組みを進めることを求めた。

また、全警協に「プラットホーム」としての役割を求めた。加盟社の中には独自に新たなテクノロジーやサービスを生み出す努力を行う企業は多いが、共有できる仕組みが整っていないと指摘。全警協に各社が安心して情報の提供を行える場所(プラットホーム)となることを期待した。