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最低賃金 全国で28円増2021.08.01

厚生労働省の中央最低賃金審議会が7月16日に行った答申により、2021年度の地域別最低賃金改定の目安額28円(全国加重平均)が決定した。全国平均の最賃額は現行の902円が930円となる。28円増は1978年度に目安制度が始まって以降で最高額。引き上げ率は3.1%となる。

特に今回は、都道府県の経済実態に応じて全国をA(東京、神奈川など6都府県)、B(京都、茨城など11府県)、C(北海道、宮城、福岡など14道県)、D(青森、鳥取など16県)の4ランクに分けて提示していた目安額を全国一律で提示。賃金の地域間格差への配慮が行われた。

新最賃は、都道府県労働局での「地方最低賃金審議会」での議論を経て決定、10月頃に順次発効する。

特集ワイド 高齢警備員の安全2021.08.01

少子高齢化により働く高年齢者が増えている。これに伴い職場では60歳以上の労働災害も増加傾向にある。なかでも警備業は他業種に比べて警備員の高齢化が進んでおり、高年齢者の労働災害防止対策は大きな課題だ。厚生労働省が策定した「高年齢者の安全と健康確保のためのガイドライン」の概要を紹介するとともに、高年齢者に特に多い「転倒災害防止」について考える。

厚生労働省の調査によれば、2020年(1〜12月)に全国で発生した労働災害で死亡または4日以上の休業を余儀なくされた人(死傷者数)は13万1156人だった。うち60歳以上の高年齢者は3万4928人と全体の約27%、4分の1以上を占めていた。

警備業は全死傷者数1792人のうち60歳以上は895人と全体の約50%。他業種に比べ高年齢者の労災発生が高い。その背景にあるのが警備員の高齢化だ。警察庁調べ(20年12月末現在)では、全国の「60歳以上」の警備員は26万4289人、全警備員数58万8364人の約45%を占める。このため警備業では、今後も高年齢者の労災は増加することが予想される。

高年齢者の労働災害が増加する要因として、高年齢者の身体機能の低下が挙げられる。加齢に伴う筋力の衰えによる敏しょう性や持久性の低下、聴覚・視覚などの各種認知機能の低下などだ。さらに、高年齢者は一般的に糖尿病や高血圧などの基礎疾患を持つ人が多く、熱中症などの重篤化につながりやすい。また、負傷や疾病による休業期間も長期化する傾向にある。

このため厚労省は20年3月、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称:エイジフレンドリーガイドライン)を策定した。

同ガイドラインは(1)安全衛生管理体制の確立(2)職場環境の改善(3)高年齢労働者の健康や体力の状況の把握――など全5項目の事業者に求められる取り組みを示した。職場環境改善では、ハード、ソフト両面にわたる具体的な取り組みを例示した。

【ハード面の主な対策】

▽通路や作業場所の照度を確保し、照度の極端な変化を防ぐ。

▽階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消する。

▽床や通路の滑りやすい箇所には防滑素材を採用し、作業する人には防滑靴を利用させる。滑りの原因となる水分・油分は放置せず、こまめに清掃する。段差や滑りやすい場所の危険を解消できない場合は、安全標識などにより注意喚起を行う。

▽異常などを知らせる警報音は、年齢に関係なく聞き取りやすい「中低音域の音」を採用し、音源の向きを適切な方向に設定する。また、聴覚だけに頼らず、パトライトによる注意・警告など視覚も活用した注意喚起を行う。

【ソフト面の主な対策】

▽短時間勤務や隔日勤務、交替制勤務など、勤務形態や勤務時間を工夫する。

▽注意力や集中力を必要とする作業は、作業時間を考慮する。

▽身体的な負担の大きな作業では、定期的な休憩の導入や作業休止時間の運用を図る。

エイジフレンドリーガイドラインは、高年齢者の健康や体力の状況把握と、これに応じた対応にも言及している。

脳梗塞や心筋梗塞などの脳・心臓疾患が起こる確率は、加齢により徐々に増加する。高年齢者については基礎疾患の罹患状況を踏まえ、労働時間の短縮や深夜業の回数減少、作業転換などの措置を講じる。また、健康や体力は高齢になるほど個人差が拡大。個々の健康や体力の状況に応じ、適切な業務に高年齢者を配置する。

安全衛生教育については、労働安全衛生法に基づく各種教育の確実な実施はもちろんのこと、作業内容とそのリスクについての理解を得やすくするため、十分な時間をかけ、写真や図・映像などの文字以外の情報も活用する。なかでも、再雇用や再就職などで経験のない業種や業務に従事する場合は、特に丁寧な教育訓練を行う。

一方で、高年齢者自身も身体機能の低下が労働災害リスクにつながることを自覚することが必要だ。体力維持や生活習慣の改善、働き方や作業ルールにあわせた体力チェックの実施を通じ、自らの身体機能について客観的に認識することをガイドラインは求めている。

「東京2020」守る警備員2021.08.01

東京都や首都圏3県など各地で新型コロナウイルス感染が急拡大する中、東京五輪が行われている。警備JV(共同企業体)は、全国の警備会社553社によるオールジャパン体制で、各競技会場や選手村に延べ60万人の警備員を配置。感染予防を万全に行い、連日の猛暑による熱中症対策も講じながら、各自の持ち場で「大会の安全確保」に全力を注いでいる。本紙取材班は、各競技会場に足を運び、警備員の“生の声”を聞いた。

【東京2020警備取材班】

7月22日・さいたまスーパーアリーナ(さいたま市、バスケットボール)

埼玉県三郷市内の警備会社に勤務する警備経験6年の警備員(41)は、この日が大会警備の初日だった。

「私はワクチン接種を2回済ませたので安心して警備業務に携われます。世界のアスリートが集う五輪の警備という重要な任務で緊張しますが、安全確保という自分の役目をしっかり果たしたい」と胸を張った。

「警備員の仕事にやりがいを感じている私を、家人は『楽しいと思える仕事に就けてよかったね』と応援してくれています」と笑顔で語った。

23日・国立競技場(新宿区、開会式・閉会式、陸上、サッカー)

国立競技場周辺の規制ポイントでセキュリティーチェックを行う警備員(70)。

「神奈川県内の当社からは、大会警備に2人が参加しています。多くの警備会社から警備員が参加していますが気を遣うこともなく業務に取り組めています。警戒は厳重で、関係者はもちろん警察官であっても通行のたびにIDカードを確認するほどです。私は警備経験が豊富というわけではないが、世紀の大イベントの警備に参加できることは光栄。体調管理にも気を配りながら、安全安心に全力を尽くします」と語った。

23日・国立代々木競技場(渋谷区、ハンドボール)

愛知県内の警備会社に勤務する警備員(30)は、東京2020警備のために上京した。1か月ほど警備業務に携わる予定で、宿舎から会場まで電車で30分ほどの距離を通勤している。

「連日気温が高く、慣れない出張で厳しい面もありますが、感染予防を含め健康管理に留意しながら大会期間を乗り切ります」。

埼玉県内の警備会社に勤める警備員(60代)は、「制服が長袖で『暑くないか』とよく聞かれるが日焼防止効果もあり、かえってこちらの方がよいと思います。熱中症予防とコロナ対策を万全にして職責を果たしたい」と語った。

23日・馬事公苑(世田谷区、馬術)

都内の警備会社に勤務する警備員(70代)は「私の担当は関係者通用口なので、無観客は業務への直接的な影響はありません。巨大な観客席を作ったのに使われないのは残念ですが、競技が始まればポールに各国の国旗が掲揚され、オリンピックムードも盛り上がると思います」と期待を語った。

23日・夢の島公園アーチェリー場(江東区・アーチェリー)

長野市内の警備会社に勤める警備員(59)は、日ごろは管制業務を行っている。

「1年延期となって『満を持して』という思いで警備に就いています。地元では出発を前に結隊式が行われ、当社社長から『世界中のメディアが訪れて注目する。規律正しく安全確保に万全を期すように』と激励を受けました。家族からは『コロナには気をつけて』と送り出されました」と話した。

23日・陸上自衛隊朝霞駐屯地(東京都練馬区、射撃・クレー射撃)

会場周辺の道路で、交通誘導警備業務に当たる女性警備員(57)。大きな身振り手振りで「ごめんなさあい!」と声を張り上げながら車を誘導する。兵庫県姫路市内の警備会社に勤めており前社から数えて10年以上警備業に携わっている。長く続けている理由を聞くと「楽しいからです。今日も市民の方から『塩飴』を頂きました。地元の人とコミュニケーションがとれるところが好きです」と明るく答えた。

さいたま市内の警備会社に勤め、射撃会場周辺で大会関係車両の交通誘導警備業務に当たる警備員(80)は、1964年の東京大会当時は学生だった。同大会の「馬術」に出場し、その後「レジェンド」と呼ばれた法華津(ほけつ)寛(ひろし)氏は友人とのこと。2度目の東京大会に感慨もひとしおだ。

「本来は約3200人も収容できる射撃会場ですが、今回は無観客で残念。パラリンピック閉会まで気を抜かずにやり遂げます」と述べた。

姫路市内の警備会社に勤務し交通誘導警備を行う警備員(74)は、一部上場企業を一昨年退職したという。「社会の役に立ちたい」と一念発起、警備会社の門を叩いたことが2020東京大会の会場警備を担うきっかけだ。

「私はドイツで勤務していた時代があり、大の“ビール党”です。しかし大会期間中は、翌日が休日の日にしか飲酒はしない。それほどの気持ちで業務に臨んでいます」と意気込みを見せた。

交通誘導警備を行っていた女性警備員(60)は、韓国の生まれ。日本人の夫と結婚して33年だという。一昨年までは個人宅や団体を対象に料理を教える仕事をメインに行っていた。しかし新型コロナの発生でその仕事が激減。料理の仕事の合間に10年以上続けてきた警備業に助けられた。今は警備業が“軸足”になっているそうだ。「私は料理の店を持つことが夢ですが、この仕事も続けたい」。

26日・国技館(墨田区、ボクシング)

大阪市内の警備会社支社に8年勤める警備員(29)は、普段は貴重品運搬警備業務を行っている。

「現任教育で施設警備業務の教育も受けていますので、特に問題はありません。気掛かりなことは、1歳、3歳、4歳のやんちゃな男の子を自宅に残してきたこと。長期の出張で妻に負担が掛かり申し訳ない気持ちです」。

警備を担当する会場は国技館をメインに、選手村、横浜スタジアム、オリンピックファミリーホテル(OFH)の4か所を予定している。