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クローズUP

世界は高度技術の警備へ2021.10.21

遠藤保雄の米国便り④

前号で世界の警備市場は今後も年率3〜4%の成長傾向が続くと報告した。拡大する世界の警備市場争奪戦を制する多国籍警備企業はどこなのか。2大警備会社の「アライド・ユニバーサル」(本社・米国)と「セキュリタスAB」(本社・スウェーデン)の市場戦略について考察する。

前者は80か国、後者は47か国で業務を展開している。米欧以外の世界各地の営業拠点を活用し、警備需要が拡大する地域への進出基盤がある。共通するのは、徹底した顧客ニーズを把握した上で注文に応じてカスタマイズ(改変)したセキュリティー・ソリューション(解決法)の提供だ。

すでに両社は新興国や発展途上国を含め都市化・工業化の進展に伴うオフィスや工場・事業場において、必要があれば即、高度技術を導入した警備に関して優れたノウハウを確立していると言ってよい。

基本的には、市場が拡大する国では、まず、地元警備会社が人的警備を軸として対応していくことになる。しかし、発展する主要産業分野の警備や都市地域の大規模オフィスなどの警備では、高度技術を駆使した警備業務の導入が求められるだろう。その際、2大警備会社の優位性が浮かび上がるのだ。具体的には、アラーム・モニタリングを展開する上で、低コスト・高機能のビデオカメラ監視、侵入検知、環境管理、火災検知と防火システム、超高速の警備情報伝達、遠隔地からの現場判断などを可能とする技術体系の確立だ。機器の導入で確実な監視と人的削減を図りながらの警備の体系化・効率化・コスト低減化である。

社員教育に注力 専門家を育成

アライド・ユニバーサルは、主要産業分野ごとに直面するリスクや危機の違いを踏まえた専門的警備を長年実施してきた。製造業、石油化学、商業用不動産、マンション・超高層ビル、防衛・航空宇宙、流通、教育、金融、ヘルスケア、ハイテク情報通信、小売業、運送業、電気・ガス・水道、ホームセキュリティーなど、あらゆる分野で警備のスペシャリストを養成して業種実態に応じた質の高い警備で成果を上げている。

顧客のリスク・危機管理ニーズを徹底的に洗い出し、顧客と話し合いカスタマイズされた警備を行うために、必要なテクノロジーツール・施設機器を駆使して警備業務を展開する。また、人材の雇用と入社後の研修や現場ニーズに応じた専門家の養成に力を入れている。その警備実施は警備業務の現場での対応を基本とし、現場を管轄する地域事務所のサポート、さらに必要が生じれば本部直結での支援体制という3段階の対応体制をとっている。この業務展開を一括的に統括するのが警備に必要なテクノロジーツールとセキュリティーインテリジェンスを分析統合して警備現場を支援する24時間365日稼働のグローバルセキュリティーオペレーションセンター(GSOC)である。

セキュリタスABでも、現場警備と巡回警備をベースにしつつ、高度警備技術を活用したアクセスコントロールや遠隔地からの警備のサポートを展開する「最適電子警備方式」を導入した。これによりコストパフォーマンスと警備への信頼性という両面で業務の拡大につながっている。

両社とも高度技術体系の活用は(1)警備に不可欠なリスク・危機管理のコンサルティング業務の拡大(2)高度情報化社会の下で急増するるサイバーセキュリテイー業務への対応(3)インターネット接続のパソコン・IoT家電が普及する中、ホームセキュリティーの導入拡大――という業務増加に結実したと言ってよい。

注目すべきは、アライド・ユニバーサル、セキュリタスABは、同様にシステム警備業務に従事する社員の教育に力を入れ、士気の高さを確保していることだ。また、人材の雇用と入社後の研修や現場のニーズに応じた専門家の養成に力を入れている。要は「人」なのである。

世界の大手警備企業は警備業務に関する技術の開発に膨大な資本を注ぎ込んでいる。急増する警備需要への対応方途として新技術を活用し、警備を展開する。ハード・ソフト両面で統合型警備方式の急速な進化は世界の潮流となり、留まる気配はない。

東京2020警備ねぎらう2021.10.21

組織委・米村CSOと中山会長

全国警備業協会が10月7日に開催した第3回理事会では、中山泰男会長(別掲)とオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会でチーフ・セキュリティ・オフィサー(CSO)を務めた米村敏朗氏が、大会を支えた警備JV553社と延べ約54万人の警備員をねぎらった。

米村氏は警察とともに大会の安全を担った警備業に「巨大イベントでのセキュリティー確保には、あらゆる事態の“想像”と、想像される事態を防ぐ万全の“準備”が重要だ。警備業に大会の安全を支えていただいた」と謝意を述べた。

かけがえないレガシー

全警協 中山泰男会長

史上初めて民間警備会社による「警備JV」を設立し、加盟553社、延べ50万人以上の警備員と文字通り「オールジャパン」で大会警備に従事しました。警備業にとってかけがえのない3つの「レガシー」になりました。

1つは、女性警備員、外国人警備員、身体にハンディのある警備員の活躍が目立ったことです。大会の基本コンセプトである「多様性と調和」を見事に実現しました。

2つ目は、ITのフル活用です。大会組織委員会が大会に必要とする教育をeラーニングで実施したことや、警備員の上番下番報告にITシステムが利用されました。

3つ目は、適正な契約締結と単価獲得の実現です。事前にキャンセル料やペナルティーを明確に定め、契約に関して適切に準備したことが質の高い業務提供の下支えになりました。

関係者全員の相互信頼と同意のもとで、大会警備の完遂という目的に向かい業務に取り組めた実績と誇りは、今後の警備業界の発展における貴重なレガシーになり得ると考えます。

警備業者賠償責任保険2021.10.21

全警協、加盟社の経費軽減へ

全国警備業協会は来春から「警備業者賠償責任保険団体制度」を導入する。10月7日に開催した理事会で決議した。

同制度は、全警協が団体として保険契約者、加盟社が被保険者となる保険契約。団体が保険契約者となるスケールメリットを生かし、個別企業の契約では困難だった保険料の割引など加盟社の経費負担軽減を目指す。

保険料軽減などの各種優遇措置は、被保険者である全警協加盟社に限定されるため、都道府県警備業協会は制度の広報や普及を呼び掛け、警備業者賠償責任保険に加入していない加盟社の保険加入を促す。協会に非加盟の警備会社に対しては「加入促進ツール」として活用する。

団体保険制度を運用する幹事保険会社には三井住友海上火災保険を選定。他の保険会社と契約している加盟社については、現行の保険契約が継続できるよう配慮する。

警備業者賠償責任保険は、警備業務遂行に際し、警備会社が負う損害賠償責任によって生じる損害を保険金で支払う制度。具体的には、警備会社が被害者に支払い責任を負う「損害賠償金」、訴訟や示談交渉に要した訴訟費用や弁護士費用などの「争訴費用」――などに対して保険金が支払われる。

年間保険料は各社の売上高や警備業務の内容などの各種条件が加味されて決定されるが、一般的な個人保険に比べ高額な保険料となっている。

特集ワイド 「第6波」に備える2021.10.21

9月30日付で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除されたが、今冬には感染「第6波」の到来が懸念されている。医療提供体制のさらなる強化が必要で、警備業も医療施設の警備を通じた感染拡大防止に引き続き貢献していかなければならない。そのためには危機意識を維持しながら、新たに設置が予想される臨時の大規模医療施設への対応も視野に入れていく必要がある。

コロナ感染拡大防止のため、感染者は軽症・無症状であっても自治体指定の宿泊療養施設で一定期間隔離される。これら施設は外部との接触を遮断することが不可欠で、多くの警備会社が厳重な警備体制を敷き感染拡大防止に貢献してきた。

「第6波」到来の場合、感染者が入所している全施設で厳戒警備体制を敷く必要があるが、従来以上に警戒心を持ち緊張感を維持しながら、警備員の感染防止にも努めなければならない。感染の収束時期は予測が難しく、張り詰めた状況を長い間維持していくことは至難の業だ。しかし、感染拡大防止に対し警備業が重大な役割を担っていることを認識し、あらゆる手段を講じ社会的要請に応えなければならない。

ポイントとなるのは今後増えていくとみられる臨時医療施設への対応だ。「第5波」では治療が必要な感染者が入院できないケースが増え、自宅や施設で療養中に症状が急変し死亡する事例も相次いだ。

このため厚生労働省は、9月14日付で都道府県に臨時医療施設の設置を強化するよう要請した。警備業も宿泊療養施設や病院に加え、今後は臨時医療施設の警備も視野に入れないといけない。

内閣官房のまとめによると、8月末現在14都道府県に臨時施設が20か所開設され、大阪府は全国に先駆け1000床の大規模療養・医療施設を設置した。「第6波」に備え、首都圏をはじめとする各都道府県も同様の施設を設置すると思われる。

大阪府のような大規模施設であれば、これまで活用してきた施設に比べ規模が飛躍的に拡大し、施設の仕様や形態も変わってくる。従来は民間ホテルの全館借り上げが主体だったが、今後は学校体育館や大規模展示会場、臨時に建設したプレハブ棟などが加わる。警備への影響も少なからず予想され、各施設の仕様に則した警備計画の立案や必要な人数の警備員手配が不可欠となる。

大阪府は展示施設のインテックス大阪(大阪市)で、6つの展示館のうち6号館を「大阪コロナ大規模医療・療養センター」とし9月30日から運用を始めた。病床1000床を備え、「第6波」が到来しても対応できる陣容を整えている。

設置・運営者は、日本パナユーズ(大阪市、西門賢治社長)が加わる企業共同体(JV)に決定した。JVはコロナ重症患者用病棟の警備・清掃業務を行った経験が高く評価され、課題だった看護士確保を提案したことも決め手となった。

感染者数が小康状態の時は同センターも待機状態で警備は4か所で行うが、感染拡大が確認され受け入れが始まれば警備の場所も26か所に増える。同センターは高さ3メートルの鉄製障壁で囲い、1〜5号館の利用者が誤って立ち入らないよう完全隔離する。入所者が外出しないよう警備は24時間体制で行う。

今後、首都圏など人口が集中する地域でも大規模施設が設置される公算が高い。その場合、同センターが設置に向けた一つの指標になりそうだ。民間事業者が運営を手掛けるのかどうか不明だが、警備体制は参考になる。民間運営事業者を選定する場合はコロナ重症病棟での警備実績も重視される見通しだ。

課題も残る。大規模施設設置は「第6波」への備えが目的だが、波がこない可能性もある。施設が待機状態の時と本格稼働している時の警備体制は差異が大きく、警備員の手配などが悩ましい問題となりそうだ。

しかし「第6波」には備えなければいけない。感染拡大防止、医療体制強化のため警備が担う役割も極めて重要なことは再認識しておきたい。